経営コンサルタントの長野研一です。
経営コンサルタントとして多くの現場に立ち会っていますが、先日、ある地方都市で専門工事会社を営む経営者ご夫妻との面談で、非常に印象的な「視座の転換」が起こりました。
今回は、経営者が陥りがちな「当たり前という名の盲点」を、いかにして「独自の武器」へと変えていったのか。その支援の舞台裏を私(長野)の視点でお伝えします。
1. 経営者を縛る「板挟み」
その会社の経営者(社長)は、非常に強い責任感と、ある「ジレンマ」を抱えておられました。 社長ご自身は「現場のマネジメント」に高い適性があり、利益も出しやすい。しかし、会社には先代から引き継いだ特殊な「加工設備」と「熟練職人」という大きな資産があります。
「自分は外の現場で腕を振るいたいが、工場の稼働を止めるわけにはいかない」 「しかし、工場を維持するための仕事は価格競争になりやすく、利益が薄い……」
この二つの板挟み(ダブルバインド)の中で、社長は「電話が鳴るのを待つだけの営業」に疲れ果てていました。隣で寄り添う奥様も、社長の想いと工場の維持という現実の間で、静かに心を痛めておられるのが伝わってきました。
2. 私が投げかけた、一つの「問い」
面談の冒頭、私は社長にこう問いかけました。 「社長にとって『普通のこと』の中に、実は他社が喉から手が出るほど欲しがる価値が隠れています。それを一緒に掘り起こしませんか?」
社長が当たり前だと思っていた「設計図を自ら引き、加工し、現場での組み立てまで一貫して完結できる体制」。私はこれを単なる「作業の流れ」ではなく、顧客にとっての「ソリューション」として再定義しました。
具体例を引き出す中で、ある事実が浮かび上がりました。その会社と組んだことで、専門知識を持たない元請け会社が、それまで諦めていた難易度の高い工事を受注できるようになったというエピソードです。
私はその事実に光を当て、こうお伝えしました。 「御社は単なる下請けではありません。お客様の『事業領域を広げるパートナー』、いわば『外付けの技術部門』なんです」

3. 「情報のハブ」の価値に気づく
また、社長が「手間ばかりかかって利益が薄い」と苦笑いしていた、知人からの特殊な小規模案件についても視点を変えていただきました。
なぜ、他社が断るような難解な相談が、真っ先にその知人のもとに集まるのか。そして、なぜ彼はそれを迷わず社長に相談してくるのか。 それは、社長が「断らずに答えを出す、駆け込み寺」として信頼されている証拠です。
私はその知人を単なる「小口の客」ではなく、「情報のハブ(結節点)」として再定義することを提案しました。そこから得られる「困りごと」のデータこそが、新市場を切り拓くヒントになる。そうお話ししたとき、社長の表情にパッと明るい兆しが見えたのを、私は見逃しませんでした。
4. ビフォーアフター:重い足取りが「確信」に変わるまで
【Before:面談前】
「仕事がないのは営業が下手だからだ」という自責の念。
工場の維持という「義務感」で動く、重い足取り。
「待ち」の姿勢から抜け出せない閉塞感。
【After:面談後】
「自分たちは顧客に利益をもたらすパートナーだ」という自己肯定感。
自社の技術を「受注工事提案」として売るという、明確なターゲット(友誼企業の開拓)の特定。
工場の稼働を安定させつつ、社長自身が得意な分野に注力するための「二段構えの戦略」への合意。
5. 支援は「実行」のフェーズへ
今回の対話で、ご夫妻の視座は大きく引き上がりました。しかし、本当の勝負はこれからです。
今後は、現在の「良き理解者」をあと3社増やすための具体的なアプローチを支援していきます。また、数年後に控えるベテラン技術者の引退を見据え、どのように技術をデジタル化し、社長が自由に動ける時間を最大化していくか。
かつて同じような悩みの中にいたお客様のことも少しご紹介しました。
『そのお客様も、待ちの営業に終始して閉塞感から抜け出せずにいました。でも、それから数年たった今では、Ⅾ級からⅭ級に昇格、数年後にB級に上がるか、Ⅽ級のまま戦うほうが有利か、そんな贅沢な悩みを持つまでになっています。』
「待つのに疲れた」という言葉が、いつか「攻めるのが楽しい」に変わる日まで。私はこれからも、ご夫妻の歩みに伴走し、その「強みの翻訳」を続けていきたいと考えています。