大事なのは「粗利率」か「粗利額」か? 中小建設業“逆転”の管理術

中小建設業の経営コンサルタント 長野研一です。

「この工事案件、粗利15%しか取れないのか。うちのハードルレート(受注基準)は20%だ。そんな赤字同然の仕事は受けられないな」

よくあることです。しかし、この判断が「会社を倒産に導く引き金」になるとしたら、あなたはどうしますか?

かつて地域で知られた名門が、不採算事業から次々撤退し、往時の勢いを失ってしまいました。経営者はこう言いました。「あの分野は外注費が嵩み、赤字続きだったからやめたんだ」と。

一見、理にかなった経営判断に見えます。しかし、そこには「ベテラン社員の固定費を回収する」視点が抜け落ちていました。


1. 「見せかけの赤字」の正体

なぜ、現場で利益が出ているはずなのに、決算書では赤字に見えてしまうのか。その原因は、「固定費」の混ぜ方にあります。

正社員であるベテラン現場監督の給料や常用契約の職人の報酬。これらは仕事の有無にかかわらず発生する「固定費」です。これを、個別の現場に無理やり割り振って(配賦して)管理すると、判断を誤ります。

例えば、外注費が嵩んで「粗利がわずか」になる事業があったとします。

  • 会計上の判断: 「これでは何かあったら赤字だ。入札参加は見合わせよう。」

  • 経営上の真実: その工事を請け負わなくても、ベテラン監督の給料(固定費)はかかってしまう。逆に、その現場が稼いでいた「わずかな利益(固定費の回収)」だけが丸々失われ、会社全体の赤字はさらに膨らむことになる。


2. 経営のギアを切り替えるキーワード:「手余り」と「手不足」

経営者が判断の基準にすべきなのは、一律の「粗利率」ではありません。今の自社の資源(ここでは受注余力)が「手余り」か「手不足」か。この稼働状況に合わせて、追うべき数字を切り替える必要があります。

【戦略 A】「手余り」の時は、【粗利額】を拾い尽くせ

ベテラン監督や職人の手が空いている状態。これは「エンジンをかけたまま空吹かししてガソリンを捨てている」状態です。

  • 判断基準: 粗利率が低くても、外注費や材料費(変動費)を(極論を言えば)わずかでも上回る「粗利額」が出るなら、迷わず受けろ。

  • 目的: どのみち発生する「固定費(社員の給料)」を、その現場に少しでも肩代わりさせるため。

【戦略 B】「手不足」の時は、【粗利率】で選別せよ

仕事が溢れ、監督もパンク寸前の状態。ここでは「率」がすべてです。

  • 判断基準: 基準となる「目標粗利率(例:22%以上)」をクリアできない案件は断る。

  • 目的: 限られた「人の時間」という資源を、最も効率よく利益に変えるため。


3. 現場を迷わせない「新・利益KPI」の導入

しかしながら、「利益率が低くてもいい」とだけ伝えると、現場は安売りに走ります。そこで、営業と工務が追うべき指標を、従来の「粗利」から「現場利益」に再定義しましょう。

現場利益 = 契約金額 – 変動原価(材料費 + 専門業者外注費)

固定労務費のような「固定費」を引く前の、純粋な現場の稼ぎ(現場利益)で勝負させるのです。その現場でのみ重機レンタルが発生する場合は変動費に含めるべきですが、複数の現場で使うために月払いでレンタルせざるを得ない重機賃借料は、固定費に含めるべきでしょう。トラックなどの燃料費は悩ましいところですが、遠方の現場では「変動的現場諸経費」として変動原価に含めるほうがいいかもしれません。


4. 利益を死守する「3つの関所」

この戦略を定着させるために、現場には3つの「関所」を守らせてください。

  1. 【着工前】「握り」の関所: 今、自社は「手余り」か「手不足」か? それに照らして、この現場利益率は合格か?

  2. 【発注時】「防衛」の関所: 材料・一般外注費を予算内に収めたか?(ここで現場利益が確定する)

  3. 【施工中】「流出」の関所: 現場での追加要望を「無償サービス」にして、現場利益を捨てていないか?


結論:数字を「合わせる」のではなく「使う」

経営者の仕事は、現場を「率」という定規だけで測ることではありません。

「今、わが社の人手はどれくらい余っているか?」を正確に把握し、時には泥臭く「額」を拾い、時にはシビアに「率」で選ぶ。

この「手余り・手不足」の状況に応じた柔軟な指揮こそが、会社を、そして社員の生活を守る最強の武器になるのです。

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