経営コンサルタントの長野研一です。
「攻めるよりも、退くほうが百倍難しい」 これは戦国時代から現代のビジネスシーンまで変わることのない真理です。
多くの場合、私たちは「前進すること」や「継続すること」を美徳として教えられます。しかし、真に有能な指揮官(経営者)は、「いつ、どう退くか」という撤退戦の技術にこそ、その真価が問われます。
今回は、織田信長の重臣であった佐久間信盛の逸話や、私が経営コンサルタントとして見てきた現場のリアルを交え、成功する撤退戦の条件を整理します。
1. 歴史に学ぶ「しんがり」の技術:なぜ「退き佐久間」は重宝されたのか
信長の時代、織田家中で「退き佐久間」と称された名手、佐久間信盛。彼は、敗色が濃厚な場面で最後尾を務め、敵の追撃を食い止めながら味方を無事に逃がす「殿(しんがり)」のスペシャリストでした。
彼が名手と呼ばれた理由は、単に逃げ足が速かったからではありません。
秩序ある退却: パニックに陥る部隊を統制し、組織としての形を崩さなかった。
リソースの温存: 兵力を全滅させず、次の戦いで使える「資産」として持ち帰った。
撤退戦の定義とは、単なる「あきらめ」ではなく、「被害を最小限に抑え、次なる機会のためにリソース(人・モノ・金・信頼)を温存しながら退くプロセス」なのです。
2. 窮境で露呈する「経営者の4つのタイプ」
経営が窮境に陥ったとき、経営者の「人物」が残酷なまでにあらわれます。私はこれまで、多くの現場で以下の4つのタイプを見てきました。
漂流型: どこまでも楽観して過去の反省もせず、倒産して数ヶ月してはじめて事の重大さに気づく人。
手遅れ型: 周囲の諫言でギリギリ気づいたが、経営を立て直すには時すでに遅しとなった人。
覚醒型: 専門家の叱咤で問題の大きさを実感し、死にものぐるいで取り組み、経営に目覚めた人。
不屈型: あえなく倒産の憂き目をみたが、その反省に立って捲土重来(けんどちょうらい)を果たした人。
撤退戦を「成功」に導けるのは、3と4のタイプだけです。彼らに共通するのは、「現実を直視し、自らの手でハンドルを切る」という覚悟です。

3. なぜ撤退戦に追い込まれたのか?――「理想のお客様」の不在
ここで、私がコンサルタントとして学んだ最も重要な教訓をお伝えします。 そもそも、なぜ撤退せざるを得ない状況に陥ったのか。多くの場合、その理由はつまるところ「理想のお客様」にフォーカスしていなかったことにあります。
「理想のお客様」とは: 自社が最も貢献できて、かつその価値を心から喜んでくれる人。
多くの経営者は、苦しくなればなるほど「誰でもいいから客を捕まえたい」という誘惑に駆られます。しかし、自分たちの強みが活きない顧客、無理な値下げを要求する顧客に対応するためにリソースを使い果たし、戦線が横に伸びきって、結局どこも守れなくなる……。
撤退戦の本質とは、「理想ではないもの」を削ぎ落とし、再び「理想のお客様」だけを見つめ直すためのリセット作業なのです。
4. 敗北を「資産」に変える、再起への3ステップ
撤退戦をただの苦々しい記憶で終わらせてはいけません。それを「成功」と評価するための作法があります。
① 経験を「文字化」して血肉にする
撤退の最中に感じた痛みや判断の迷いを、あえて言葉にして書き残してください。文字にすることで感情から事実が切り離され、それは二度と同じ失敗をしないための「あなただけの戦略図」に変わります。
② 「この経験をプラスにせずにおくものか」という気概
撤退を「終わり」と捉えるか、「高い授業料を払った学び」と捉えるか。その気概一つで、その後の人生は180度変わります。
③ 「救いたいのは、かつての自分」
私自身、周囲の期待に応えようとして自分の人生を後回しにしてきた過去があります。だからこそ、今、独りで撤退戦を戦っている経営者の孤独がわかります。
結びに代えて:あなたの「しんがり」を務めます
もし今、あなたが戦い続けるべきか、退くべきかの瀬戸際に立っているのなら。 かつての佐久間信盛が信長を守り抜いたように、私は不動産鑑定士・中小企業診断士として、あなたの「しんがり」を務めたいと考えています。
撤退は、敗北ではありません。 「理想のお客様」とともに、再び笑える日を創り出すための、前向きな決断です。
独りで戦線を離脱せず、共に次の勝利をデザインしましょう。