中小建設業の経営コンサルタント、長野研一です。
私が顧問先の工務店で実践している「月次社内モニタリング会議」。その場は、単に数字を追うだけの場所ではありません。経営者と従業員が、ときには剥き出しの感情をぶつけ合いながらも、「プロの仕事とは何か」を深く掘り下げ、組織の土台を再構築していく真剣勝負の場です 。
実際の会議での象徴的なやり取りを交えながら、モニタリングの真実をお伝えします。
1. 「忙しさ」という逃げ場を、どう解きほぐすか
会議では、新システムの入力やルールの徹底が議題に上がります。そこでは必ずと言っていいほど「現場の忙しさ」が壁となります 。
社員: 「正直、目の前の処理をこなすだけで精一杯なんです。システム入力も、後回しにしないと現場の連絡が追いつかないのが実情で…… 。」
(社長の気持ち: 「言い訳は要らん。できていない理由を並べる前に、なぜ素直に『ごめんなさい』が言えんのやろうか… 。」)
私は社員にこう語りかけます。真正面から非を問うことなく、たとえ話を用いて、本人が自発的に気づけるよう視点をずらします。
長野: 「一生懸命、走っている最中なんですね 。……そういえば、ある農家の方が言っていました。『研いでいない鎌で草を刈り続けるのは、一番疲れる仕事だ』と 。立ち止まって鎌を研ぐ時間はロスに見えますが、研ぎ澄まされた刃で刈れば、仕事は早く美しく終わります 。今のあなたにとって、その『鎌を研ぐ時間』はいつでしょうか 。」
直接「管理が甘い」と言われると誰しもカチンときて反発したくなります。頑張っている社員ならなおさら。ですが、自分に向けられたのでない、どこかの誰かの話として聞くと、自然と「今の自分は切れ味の悪い刃で無理をしていないか」と自問自答が始まるものです 。

2. 「日付一つ」が語る、組織の規律
モニタリングでは「ファイル名の付け方」のような、一見些細なルールも話題に上ることがあります 。
社長: 「自分以外の誰かが開いた時に、すぐに理解できる。そんな保存の仕方をしてほしい 。そんな小さな工夫さえ、なぜ徹底できないのか 。」
長野: 「例えばファイル名の頭に『20260106』と半角英数で入れる 。そうすればファイルは自動的に日付順に並び、誰かが最新のデータはどれかと探す無駄な時間をゼロにできます よね。
登山隊がベースキャンプを整えるように、次に使う仲間のために場所を整える 。この『1秒の手間』が、結果としてチーム全体のスピードを上げていく 。めぐりめぐって、今度は自分がファイルを探すとき、このルールが自分の役に立ってくれます。」
「ルールだからやれ」ではなく、「仲間の(ひいては自分の)時間を奪わないためのプロの作法」として捉え直すことで、事務作業が「経営を支える仕事」へと意味づけが変わります 。
3. 「代わりのいる社員」か、「かけがえのないプロ」か
会議の緊張感が最高潮に達するのは、当事者意識(自分事化)が問われる場面です 。
社長: 「会社なんかどこにでもある、と言い放つ社員に、経営者は何を思うか 。『代わりはいくらでもいる、今すぐ辞めてくれ』。そう思われてしまうのは辛くないか 。俺は、あなたたち一人ひとりが『かけがえのない社員』であってほしい 。そう思いたい。」
長野: 「社長の言葉は辛辣に聞こえるかもしれません。でも、それは皆さんに『必要とされる人間』になってほしいという強い願いの裏返しです 。
自分の仕事が外部から『ポンコツだ』と馬鹿にされたら、腹が立つでしょう。その悔しさを、自分を磨くエネルギーに変えていこうではありませんか 。」
モニタリングがもたらす「変化」
モニタリングを終えたとき、従業員の皆さんの顔には、単なる疲労ではない「重み」が宿ります 。
自分が把握すべきは何か。伝えるべきは何か。これが言語化して把握されると、これまでは出来事を記すだけの「日記」だった日報が、誰かに何かを伝えるための「報告」へと変わり始めます 。自分たちが守るべきは「ルール」そのものではなく、その先にある「会社の信用」と「自分のプライド」であることに気づき始めるからです 。
工務店の社内モニタリングは、決して「犯人探し」でもなければ「たんなる反省会」でもありません。 それは、経営者と社員が同じ鏡を見て、共に「本物のプロ」を目指すための、痛みを伴う、しかし温かくて前向きなプロセスなのです 。