その受注、本当に「赤字」ですか?業績を伸ばす社長が実践する「増分利益」の思考法

中小建設業の経営コンサルタント 長野研一です。

「しっかり見積もりを計算すると、予算に合わない」 「人手不足の今、無理に仕事を受けるべきではないだろうか」

仕事柄、多くの経営者が、コスト増と労務管理の板挟みで悩んでいることを目の当たりにします。しかし、業績を劇的に改善させる社長たちは、一般の人が陥りがちな「積み上げ式の計算」とは異なる、「もう一つの視点」を持っています。

今回は、実話をもとに、現代の働き方にも適う「戦略的な受注判断」のあり方をお伝えします。


業績を伸ばす企業の共通点:「力の入れどころ」が明確

私のお客様の中で、短期間で大幅な業績改善に成功した方々には、共通点があります。それは、「どこで利益を出し、どこで無理をしないか」という判断基準が明確であることです。

それを象徴する、ある建設会社でのエピソードをご紹介します。

【実話】ある現場で起きた「見送るべきか」の葛藤

ある場所で工事を受注していた建設業系の会社での話です。その現場のすぐ近くに住む個人の方から、「うちの工事もお願いできないか」と打診がありました。

社長は真面目な方で、会社の標準原価に基づいて積算した見積書を作成しました。しかし、提示金額は相手の予算をオーバー。

「きちんと見積もると、どうしてもこの金額以下にはならんのですよね。でも、これじゃあ断られるだろうな…。ちょっと見てもらえんですか。」

悩む社長に、私はこうお尋ねしました。

 

視点を変える:それは「独立した案件」か「ついで」か?

私:「社長、その工事のために追加でかかる費用は、『従業員の残業代』だけじゃないですか?」

社長:「え? あ……! そうか! 重機も現場にあるし、移動の手間もいらない。わざわざ別日程で行くのとはワケが違うんだ。」

「増分利益」で見れば、それは「丸儲け」になる

通常の見積もりは、固定費や重機のリース代、移動費などを案件ごとに割り振って計算します。しかし、このケースでは状況が違いました。

  • 重機のリース料: すでにメインの工事で支払い済み。

  • 移動の手間: すでに現場にいるため、移動時間はゼロ。

  • 固定費: 社員を雇用しているだけで発生するコストは、メイン工事でカバーされている。

たとえ予算に合わせて「勉強」したとしても、残業代を差し引いて残るお金は、すべて純粋な利益(丸儲け)になります。


経済性工学の核心:状況で「正解」は変わる

ここで、経営判断において非常に重要な真理をお伝えします。

「同じ工事案件であっても、その時の自社の状況が『手余り(リソースに余裕がある)』か『手不足(目一杯で余裕がない)』かによって、採算性の判断は180度変わる」

  • 手余りの時: 社員や機械を遊ばせておくくらいなら、追加の直接費(残業代や燃料代など)さえ上回れば、どんなに安く見えてもそれは「受けるべき利益確定案件」になります。

  • 手不足の時: すでに仕事が詰まっているなら、その案件を受けるために他の高収益な仕事を断る必要(機会損失)が出てきます。この場合は、高い利益率が見込めない限り「断るのが正解」になります。

「うちは一律、利益率〇%以下は受けない」という固定観念を捨て、今の自社のリソース状況に合わせて「利益の定義」を柔軟に変えること。 これが経済性工学の基礎の基礎をなす「合理的な意思決定」です。


「働き方改革」の時代に、なぜ残業を提案するのか?

しかし、今の時代「残業をさせるのはどうなのか?」という懸念もあるでしょう。これは、単なる根性論ではなく、「生産性の向上」という文脈で捉えるべき問題です。

1. 究極の「ムダ」の排除

別の日に、別の機材を運び、別の現場へ移動して作業をすれば、多くの「非生産的な時間」が発生します。すでに現場にいる状態で行う2時間の残業は、移動や準備というムダを削ぎ落とした、極めて密度の高い120分なのです。

2. 利益を原資とした「還元」

この方法で得た利益は、通常の案件よりも利益率が格段に高くなります。その利益の一部を、頑張った社員に手当や賞与としてしっかり還元する。 「ダラダラと残業する」のではなく、「効率よく稼いで、社員の所得を増やす」。これこそが、現代に求められる攻めの労務管理です。


まとめ:あなたの見積もりには「戦略」がありますか?

「そんなの当たり前」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、いざ現場を預かると、多くの経営者が「会社の利益率のルール」という枠組みに縛られ、目の前の確実な利益を逃してしまいます。

  • それは本当に、追加コストが収益を上回るから断るのか?

  • それとも、単に「いつもの計算式」に当てはまらないから断るのか?

「力の入れどころ」をはっきりさせ、何が固定費で、何が増分(追加分)なのかを見極める。その視点を持つことが、会社と社員を豊かにする第一歩となります。


【次に繋がる一歩】 今、あなたの手元にある「予算が合わずに見送りそうな案件」を、一度「今の自社の余力(手余りか手不足か)」を照らし合わせて再計算してみませんか?

もし、具体的な判断基準の作り方に迷われるようでしたら、貴社の状況に合わせたシミュレーションを一緒に行うことも可能です。お気軽にご相談ください。

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