「それはチェックリストなのか」現場の反応から考えるAI時代の「知の資産化」

中小建設業の経営コンサルタントとして現場に入り込んでいると、言葉の定義ひとつで話が食い違うことがあります。その一例が「業務チェックリスト」です。

先日、敬愛する経営コンサルタント、嶋田利弘先生の「チェックリストコンサルティング」に関するブログ記事を拝読しました。嶋田氏はチェックリストを「ミニマム基準(最低限の行動基準)」と定義し、現場で「誰がやっても同じ結果が出る」ための不可欠なツールと位置づけています。

この考え方は、私たちが建設現場で直面する課題と深く共鳴します。しかし、現場の実情や導入のアプローチに照らし合わせると、若干違った景色も見えてきます。今回は、嶋田氏の理論と、私の現場実感を照らし合わせながら、「真に役立つチェックリスト」と、その先にある「知の蓄積」について考えてみます。

嶋田流チェックリストは、実務上の「総括表」に近い?

現場で「詳細なチェックリスト」を導入しようとすると、現場の職長から「これはチェックリストというより総括表ですね」と言われることがあります。

彼らの感覚でいう「チェックリスト」とは、直感的でシンプルな「作業ガイド」「確認ガイド」のことです。 対して、嶋田氏が提唱する「漏れなく実施せよ」「トラブルを回避せよ」という項目を網羅したリストは、彼らの感覚では「管理者が、必要な手立てが講じられたかを事後確認(あるいは担当者が事前確認)する『総括表』」としての機能に近いと言えそうです。

しかし、これは「現場に合わない」という意味ではありません。むしろ逆です。 経営や管理の視点からすれば、この「総括表(詳細チェックリスト)」こそが必要不可欠なのです。なぜなら、管理者の役割は個々の作業手順を追うことではなく、「担当者が講じるべき必要な手立ては何か」という品質と安全の最終担保(アシュアランス)にあるからです。

「引き出す」プロセスと、「触発する」叩き台

では、この重要なリストをどう作り上げるか。ここでコンサルタントとしてのアプローチ、あるいは「入り口」について考えてみます。

嶋田氏は、記事の中で「ヒアリングしながら、その場でパソコンに入力」し、参加者と画面を共有しながら作り上げていくプロセス(ライブ感)を重視されています。当然、基本となるフレームやサンプルはお持ちでしょうが、あくまで「主役は現場の言葉」であり、対話の中から正解を紡ぎ出すスタイルと言えます。

一方、私は嶋田氏のスタイルを理想としつつも、建設業の経営者に対して、あえてかなり作り込んだ「叩き台」を提示するスタイルをとっています。 私のお客様には、「さあ作りましょう」よりも、「まずはこれをベータ版にしませんか?」とご提案し、まず使って体感してみるほうが受け入れられやすいと感じたからです。

すると、「いや、これはうちのレベルにあわない」「このへんは細かすぎる」といった具体的な修正意見=「現場の本音」が出てきます。 私にとって叩き台は、正解を押し付けるものではなく、経営者や現場の「リアル」を触発し、議論の土俵に乗せるための道具なのです。

入り口は違えど、目指す頂は同じです。それは、頭の中にある「段取り」や「勘所」という暗黙知を形式知化し、会社の「資産」に変えることです。

教育ツール、そして事業承継の要として

こうして作られた詳細なリスト(総括表)は、単なる確認作業の枠を超えた役割を持ちます。

  1. 教育ツールとしての役割 新人には、現場用の「簡易リスト」では不十分です。なぜなら、「安全確認 ヨシ!」の意味が理解できていないからです。「なぜそこを見るのか」が記された詳細リストは、読み上げるだけでOJTとなり、教育コストを劇的に下げます。

  2. 経営の「自走化」 「誰がやっても同じ結果が出る」状態を作れれば、社長は安心して権限を委譲できます。チェックリストは、経営者が現場を離れ、未来の戦略を考える時間を作るための切符でもあります。

最新ツール「NotebookLM」導入で見えた本質

最後に、私の顧問先で始まった新たな試みについて触れておきます。 その会社では、蓄積されたノウハウを資産化するために、Googleの「NotebookLM」を活用しようというプロジェクトチームが立ち上がりました。業務チェックリストを含む膨大な資料をAIに読み込ませ、必要な知恵を瞬時に取り出そうという試みです。

「すごい時代になった」と盛り上がる一方で、私はプロジェクトメンバーに言いました。

「NotebookLMは、単なる『取り出す道具』にすぎませんよ」

どんなに優秀なAIがあっても、読み込ませるデータがスカスカでは意味がありません。AIは魔法の杖ではなく、有能な「検索・要約係」です。 プロジェクトの根幹にあるべきなのは、ツールの選定ではありません。 日々の業務の中で、ベテランの頭の中にある「暗黙知」を言葉にして(形式知化)、それを継続的に記録し、蓄積していく「泥臭い習慣づくり」です。

チェックリストの作成も全く同じです。 「作る」ことがゴールではなく、「現場の知恵を言葉にし続ける」という文化を作れるかどうか。 アナログなチェックリストであれ、最新のAIであれ、問われているのは「自社の経験を、次の機会・次の世代に渡せる形に残そうとしているか」という、経営の意志そのものだということです。

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