社員の心に火をつける、経営者のための自己変革術

経営コンサルタント、長野研一です。毎月第一週は、私自身の気付きをテーマに綴っていきます。


社長が「NLP」に夢中になるワケ

先日、ある社長様から声をかけられました。大分県で名の知れた会社のトップです。物腰は柔らかいけれど、仕事には一切手抜きをしない、筋の通った方です。

「長野さん、私、最近NLPを勉強し始めたんです。長野さんご自身は、コンサルティングでどう使ってるのか、少し教えてもらえませんか?」

社長は、部下とのコミュニケーションをもっとスムーズにしたい、社員のやる気を引き出したい、と考えているようでした。

経営者の方々がぶつかる「人の問題」や「会社の成長の壁」は、突き詰めればコミュニケーションにたどり着きます。その悩みを解決しようと探すと、しばしばNLP(神経言語プログラミング)という言葉に出会います。

NLPは、「脳の取扱説明書」と呼ばれることもあります。私たちは皆、知らず知らずのうちに、過去の経験から自分だけの「脳内プログラム」を持っています。NLPは、そのプログラムを理解し、もっと「動ける」「結果が出る」ものに自分で書き換えるための、超実践的なツールなんです。

私はこのNLPを、単なるテクニックではなく、経営者が「自分という人間」と「社員との関係」をアップデートするための「姿勢(スタンス)」として捉えてほしいと思っています。社長のスタンスが変われば、会社全体が驚くほど変わるからです。


武器じゃなく、「生き方」として染み込ませる

社長様への私の答えは、こうでした。

「ひと言で言えば、私はNLPを『テクニック』として使っているというより、『お客様と向き合う自分の生き方』をつくる上で役立てています。その結果、自然とNLPのスキルが私の中に染み込んでいる、という感覚です」

たとえば、NLPには「メタファー(例え話)」というスキルがあります。難しい話を、相手がイメージしやすい物語や例えに変換して伝える強力な方法です。

でも、知識として「例え話を使え」と知っているだけでは、それは冷たい『武器』にすぎません。私が大切にしているのは、自分自身がその教えに『救われた経験』があるかどうかです。

たとえば自分自身の体験をメタファーとして語るならば、飾り気のない、『自分ごと』の言葉として相手に届きます。心から出た言葉は、必ず相手の心に響くと思うのです。

頭でっかちな知識ではなく、経験という熱を通した知恵こそが、人を動かす力になります。


人を救う前に、まず自分を救え

私がコンサルタントとして肝に銘じている言葉があります。

それは、私のNLPコーチングの師である木村孝司先生からうかがった「『自分を救えない者が人を救うことはできない』」です。

木村孝司著「あなたは話せば話すほど、嫌われる人? 好かれる人? 」

コンサルタントの役割は様々ですが、私自身は、「まずは自分が実践し、クライアントに背中で示すこと」が一番だと信じています。

会社で「ビジョンを掲げろ」「計画を実行しろ」と言う人が、自分自身の人生のビジョンを持たず、グダグダと行動できないなら、その言葉は誰にも響きません。まさに「自分を救えない者が人を救うことはできない」の良い例です。

そして、この「自分を救う」ことを邪魔しているのが、実はあなたの心の中にいる「もうひとりの自分」かもしれません。過去の失敗をささやく声、新しい挑戦をためらわせる不安。これが、あなたの足を引っ張る「屈折した相棒」です。


私がNLPで「相棒」を好きになれた話

実は、以前の私自身が、この「もうひとりの自分」に悩まされていました。やるべきことは分かっているのに、なかなか行動に移せない。頭では分かっているのに、心がブレーキをかける。

でも、NLPを深く学ぶ過程で、私はこの「屈折した相棒」を、無理に追い払おうとするのをやめました。

代わりに、「こいつも自分の一部なんだ」と、好きになり、受け入れることができたんです。その瞬間、今まで自分を縛っていた様々なこだわりや思い込みを手放すことができました。さらに、自分は何のために生き、働くのか、自分の使命にも気づくことができたのです。

この体験があるからこそ、私は自信を持ってクライアントと向き合えます。自分自身が、いいNLPコーチングの『受け手』になったからこそ、相手の内面がどう変化していくのかが痛いほどわかります。

もしこの体験がなければ、NLPのスキルは「相手を自分の思い通りに動かそう」というコントロールの道具になりかねません。しかし、コントロールされて嬉しい人なんて、一人もいませんよね。

経営者がNLPを学ぶ最大の意味は、まず自分自身の心が自由になり、その変化のプロセスを社員に自然と見せられるようになること。それこそが、最も強力なリーダーシップになるのです。


体で覚える。それが一番早い。

NLPを身につける上で、私がいつも強調するのは、「知識より体感」の優先順位です。

NLPは頭で覚えるのではなく、体で覚えると、その効果が何倍にもなります。

経験したことのない感動や変化を、本で読んだだけで「わかった」気になるのは危険です。経営者の皆さんが「腹落ち」しないと動けないように、社員もロジックだけでは動きません。人は感情や体感で動くものです。

自ら体験して、「ああ、こういうことか!」と心底納得しないと、スキルは身につかないのです。

私自身も、コンサルティングの場では、相手が「見るタイプ(視覚V)」「聞くタイプ(聴覚A)」「感じるタイプ(体感覚K)」のどれに近いかを、注意深く見ています。

見るタイプの人には、ヴィジュアルに訴えてビジョンを語り、聞くタイプの人には、ロジックやエビデンスに留意し、感じるタイプの人には、「大丈夫です。私がついていますから。」と、感覚に訴える表現を使います。

これは、知識として知っているのではなく、「どう伝えれば相手に届くか」を常に肌で感じているからです。


知識を「ふりかざす」とウザくなる

大切なのは、「経験してから本を読む」という順番です。

知識が先に立ってしまうと、ダメなのです。経験によって心が動かされた後に本を読むと、今までバラバラだった知識が繋がり、「なるほど!」と一気に理解が深まります。これが、知識が知恵に変わる瞬間です。

学んだばかりの知識を、そのまま人にふりかざすと、周りの人は「この人、ちょっとウザいな」と感じてしまいます。残念ながら、どんな世界にも知識を自慢する人はいますが、コンサルタントにもこのタイプが多いと感じています。彼らは、相手の心を置き去りにし、自分の頭の中にある理論だけで相手を打ち負かそうとします。

NLPを学んだ経営者も、「私は特別なスキルを持っている」という上から目線で社員に接すれば、信頼はたちまち失われます。学んだことは、自分の内側にそっと染み込ませて、あなたの自然な振る舞いとしてにじみ出させること。それが、真のプロフェッショナルです。


経営者に残る最強の自信

経営者の仕事は、毎日が波乱万丈です。景気や市場動向、競合の出現など、外の世界は自分の思い通りにはなりません。

でも、NLPを深く学んで手に入れられる最高の宝は、「自分の脳内プログラムは、自分で変えられる」という確信です。

外部環境は変えられなくても、自分がどう受け止め、どう反応し、どう行動するかは、自分で決められる。この力を使える自信を持つことです。

  • 難しい壁にぶつかったとき、「もうダメだ」と固まるのではなく、「よし、どう乗り越えるか」と前を向ける。

  • 部下がミスをしたとき、カッとなるのではなく、「彼/彼女が次に成長するために、何を言ってあげられるか」と一歩引いて考えられる。

この「自分自身を変化させる能力を使いこなせる」という自信こそが、揺るがないリーダーシップの源です。この自信は、冷静な判断、社員からの信頼、そして組織全体の強みを引き出し、掛け算(シナジー)を生むための、最強のエンジンになります。

自分自身で変化を体現した経営者だけが、社員を、会社を、本当に次のステージへ連れていけるのです。


まとめ:あなたのエンジンを最高の状態に保つために

経営者の皆さんにとって、NLPは単なるコミュニケーションスキルではありません。それは、「経営者としてのあなたの心を鍛え、会社の未来を創るための、脳内プログラムのチューンアップツール」です。

まずは、頭で理解しようとせず、「体感」から入ってみてください。あなたが心から変化を体験したとき、その説得力と魅力は、必ず組織全体に波及していくはずです。