営業は「しないですませたいもの」なのか?
経営コンサルタントの長野研一です。
「営業は苦手だ…」「できればやりたくない…」そう思っている経営者の方は、少なくないのではないでしょうか。
インターネット広告や本屋さんに行けば、「営業せずに受注できる」「自動で顧客が集まる仕組み」といった言葉が溢れています。それだけ、「営業しない」ことには、大きな魅力があるのでしょう。
もちろん、効率的に顧客を獲得する仕組みはとても大切です。でも、営業を避けることばかりに意識が向いてしまうと、本当に大切なものを見失ってしまうかもしれません。
私は、中小企業専門の経営コンサルタントとして、これまでに多くの経営者の方と出会い、その事業を伸ばすお手伝いをしてきました。その経験から、確信していることがあります。
それは、「みんなが営業を嫌がるからこそ、そこには大きなチャンスがある」ということです。今日は、その理由を皆さんに正直にお話ししたいと思います。
「汗をかく」ことを厭わない人が一番怖い
経営コンサルタントとして、私には尊敬する仲間たちがいます。
しかし、正直なところ、自らクライアントを開拓しようとしないコンサルタントは、どれほど有能な人物であったとしても、全く怖くありません。
なぜなら、彼らは本当に大切なことを知ろうとしないからです。
お客様が本当に欲しいものを掴むために、汗をかくこと、恥をかくこと、足で稼ぐこと。
そんな地道な努力を厭う人は、本当に怖い存在にはなり得ない。
これは、コンサルタントの世界だけにとどまりません。あらゆるビジネスにおいて同じことが言えるのではないでしょうか。
営業は「新たな価値」を生み出す活動
「良いものを作っていれば、必ず誰かが見つけてくれるはずだ」
技術やサービスに自信のある中小企業の経営者ほど、そう信じている傾向が強いように感じます。しかし、お客様は、自分が本当に何を求めているのか、気づいていないことさえあるのです。
では、どうすればお客様の「本当のニーズ」を掴むことができるのでしょうか?
それは、お客様のところへ出向き、直接話を聞くことです。
- 「今、どんなことに困っていますか?」
- 「どんな未来を描いていますか?」
- 「そのために、どんな課題を解決したいですか?」
こうしたことを、お客様と深く対話する中で探り当てていく。これこそが、営業の本質だと私は考えています。
「いや、でもそれはマーケティングで解決できるのでは?」
そうおっしゃる方もいるかもしれません。もちろん、マーケティングは重要です。しかし、「お客様が本当に欲しいと思っているもの」を、データや机上での分析だけで完璧に把握することは、非常に難しいのです。
どれだけ精巧なアンケートや市場調査を行っても、お客様の「心の声」までは聞こえてきません。
そして、この「探求」の過程で、お客様の課題だけでなく、自分自身の新たな強みや、新たなビジネスの種を発見することさえあるのです。
失敗は、次なる成功のヒントになる
私自身も、お客様との面談で多くの失敗を経験しました。「これは仕事につながりそうだ!」と意気込んでお話ししても、なかなか契約には至らない。
そんな経験を重ねる中で、私はあることに気づきました。
それは、「失敗だと思った面談の中にこそ、次につながる大きなヒントが隠されている」ということです。
「今回は契約にならなかったけれど、なぜだろう?」
そう考えて振り返ることで、自分の提案方法や、お客様へのアプローチの仕方が間違っていたことに気づかされました。
さらに言えば、契約には至らなかったとしても、そのお客様との対話を通じて、中小企業が抱える新たな課題や、私の強みを活かせる新たなコンサルティングテーマを発見することができたのです。
「もともと私は、大企業で経理や購買といった分野を歩んできたから、営業は得意じゃなかったんだ…」
そんなふうに思っていた私ですが、今では「提案営業」というものが、いかに価値創造的で、コンサルタントとしての工夫やセンスが問われるものか、ということに気づくことができました。
意図を持って営業活動をするからこそ、たとえ良い結果が得られなかったとしても、「あの時お会いしてよかった」と、心から振り返ることができるのです。
顧問契約が長く続く「たった一つの理由」
経営コンサルタントとして、様々な企業の経営者とお付き合いさせていただいています。
「これまでどんな実績を上げてきたのですか?」と聞かれることもあります。
もちろん、顧問先で大きな成果が出たり、お客様から感謝の言葉をいただいたり、といった話はたくさんあります。
コンサルタントの中には、補助事業に採択された件数を自らの実績と誇示する人もいるでしょう。でも、私が思うに、経営コンサルタントの力量差がもっともあらわれるのは、自ら開拓したお客様との顧問契約がどれだけ長く続いているかということです。
顧問契約が長く続くということは、お客様との間に、揺るぎない「信頼」関係が築かれている証です。そして、その信頼は、お客様の課題に真摯に向き合い、成果を出すことで少しずつ積み重なっていくもの。
また、そればかりでなく、有能なコンサルタントほど、既存のお客様に対してもニーズ把握とコンサルティング提案を怠らないということです。
「既存のお客様だから、もう十分理解しているだろう」と安易に考えるのではなく、変化するお客様の状況を常に把握し、新たな課題やニーズがないかを問いかけ続ける。
この姿勢は、新規のお客様を開拓する営業活動と全く同じです。
お客様が本当に欲しいものを探求し、自社の強みを活かした提案を続ける。
この地道な努力こそが、顧問契約という目に見えない信頼を、強固なものにしているのです。
なぜITの専門家は経営者目線の「グランドデザイン」を描けないか
ここで、少し視点を変えてみましょう。
ITの専門家は、現場に入ってヒアリングを尽くし、システムの要求定義を明らかにしています。それでも、彼らが経営者目線の「グランドデザイン」を描くことが苦手なのはなぜでしょうか。
それは、「何を聞くか」と「何のために聞くか」というヒアリング目的の違いにあります。
ITの専門家が行うヒアリングは、主に「点」を捉えることに特化しています。例えば、「この業務を効率化するには、どんな機能が必要ですか?」といった具体的な要求や要件を明らかにします。これは、与えられた問題を解決するための「部分最適」なアプローチです。
一方で、経営者が考えるべきは、事業全体の「線」、つまりストーリーです。
- そもそも、なぜこの業務を効率化する必要があるのか?
- その先に、会社はどんな未来を描いているのか?
- このシステム導入が、会社のビジョン達成にどう貢献するのか?
こうした問いは、単に「業務効率化」という問題解決を超え、事業全体の成長戦略やビジョンと結びついています。経営コンサルタントは、この「線」を描くためにヒアリングを行います。
つまり、ITの専門家は「目の前の問題をどう解決するか」という戦術的な視点に強く、経営コンサルタントは「そもそもどこへ向かうのか」という戦略的な視点を持っている、という違いなのです。
お客様の「本当の悩み」や「本質的な課題」を深く理解するためには、目の前の「点」を解決するだけでなく、その先に広がる「線」、そして会社の「羅針盤」を共に描く必要があります。
これが、私が「提案営業」を大切にしている理由です。単にシステムの機能を聞き出すのではなく、お客様の事業そのものに深く関わり、未来を共に描く。それが、真の価値創造につながると信じています。
まとめ:営業は「未来への投資」
ここまで読んでくださった皆さんは、もうお気づきかもしれません。
みんなが営業を嫌がるからこそ、そこには機会がある。
なぜなら、その苦手意識を乗り越え、お客様と真正面から向き合うことができる人だけが、お客様に真に寄り添い、共に成長できるパートナーとなり得るからです。
「営業」という行動を、単なる義務や苦痛と捉えるのではなく、自社の未来への「大切な投資」だと考えてみてください。
その視点の転換が、きっとあなたのビジネスに、これまでにない価値と、新たなシナジーを生み出すきっかけになるはずです。
もし「どうすれば良い提案ができるのか?」「お客様のニーズの掴み方が分からない…」といったお悩みがあれば、いつでもご相談ください。
共に、貴社の未来を切り拓いていきましょう。