世代を超えて暗黙知を未来へつなぐ
こんにちは。経営コンサルタントの長野研一です。
さて、経営者の皆様とのお話の中で、ここ数年で確実に増えているテーマがあります。それは、「幹部や次世代リーダーの育成」と、それに伴う「組織として自立した経営体制への移行」です。
長年、会社を牽引してこられた社長様ほど、心の中には「この会社をこうしていきたい」「社員にはこんなふうに育ってほしい」という、熱い想いや具体的な未来像をお持ちです。しかし、その未来像が、残念ながらご自身以外の誰にも見えていない、というケースが少なくありません。
「この先、本当に幹部たちに任せて大丈夫だろうか…」 「社員は、自分が何を頑張ればいいのか、わかっているだろうか…」
そんな不安を抱えた社長様から、ご相談をいただくことが増えています。
社長が描く「未来の地図」をみんなで共有する
先日、ある建設会社の社長様とお話しする機会がありました。その方も、まさに同じようなお悩みを抱えていらっしゃいました。私は、ご提案書を出す前に、まずこうお伝えしたんです。
「今日はご提案ではなく、“これからの御社をどう未来につなげていくか”を一緒に考える時間にできればと思っています。」
まずは、社長様の頭の中にある「未来の地図」を、じっくりと聞かせていただきました。
「5年後には、社員がもっと自律的に動ける会社にしたい。」 「若い世代が、もっと安心して働ける環境をつくりたい。」 「地域に貢献できる、信頼される会社であり続けたい。」
とても素晴らしい未来像です。私は、社長様に問いかけました。
「ちなみに、社長の中にある“この会社をこうしていきたい”という未来像って、幹部の方たちはどれくらい共有していると思いますか?」 「そして、現場の皆さんは“その未来に向かって自分が何をしているのか”、実感できているでしょうか?」
社長は少し言葉に詰まり、こう答えられました。 「…どうだろう。私自身、うまく伝えきれておらんでしょうな。」
ここで、私は静かに一枚の資料を取り出しました。 「実は、“未来に向けて進んでいるかどうか”を見える化する、こんな考え方があるんです。」
資料には、抽象的な未来像を、具体的な「行動」に落とし込んだ図が描かれていました。
幹部や社員は「何のために」「何を」頑張ればいいのか?
例えば、「社員が自律的に動ける会社にする」という目標を考えてみましょう。
社長の頭の中には、「社員が自分で考えて、率先して行動する」という理想の姿があるはずです。でも、社員からすれば、「自律的に動く」というのは、ちょっと抽象的で、どう行動すればいいのかピンとこないかもしれません。
そこで、この未来を「みんなで共有できる言葉」に変換するのです。
例えば…
現場で起きた小さなヒヤリハットを、週一回チームで共有する
業務を改善した内容を、各自が月に一回、朝礼で発表する
新人社員の悩みを、上長が月に1回、1対1で聞く時間をつくる
どうでしょう。これなら、誰もが「何をすればいいか」が明確になりますよね。
このような具体的な「行動」を、会社全体で共有すれば、社員は「社長が目指す未来のために、自分はこれをやればいいんだ!」と、自分の役割をはっきりと理解できます。
そして、その行動を毎日積み重ねていくことで、会社全体が少しずつ、着実に「社長が思い描く未来」に近づいていくのです。
不安を安心に変える「未来へのロードマップ」
中小企業では、次世代の育成や、組織の自立化が大きな課題となります。 社長様は、「本当に次の世代に任せて大丈夫だろうか?」という不安を抱えがちです。
一方で、幹部や次世代リーダーもまた、社長が築き上げてきた歴史と、その想いの重みに、一人で向き合わなければならないプレッシャーを感じています。
しかし、もし会社に、世代を超えて共有できる「未来へのロードマップ」があれば、どうでしょうか。
社長は、「この地図に沿って進めば、私が思い描いた未来にたどり着ける」と、安心してリーダーたちに役割を任せられます。
幹部や次世代リーダーも、「この地図があるから、一人で抱え込まずに、社員と一緒に進んでいける」と、自信を持ってリーダーシップを発揮できます。
そして、何よりも、現場の社員の皆さんが「社長が目指す未来の、どこに自分が立っているのか」がわかります。
自分が今、頑張っている「行動」が、会社の未来につながっていることを実感できる。これは、仕事へのやりがいやモチベーションを大きく高めることにつながります。
「行動」で語り合う未来づくり
社長様に、私は最後にこうお伝えしました。
「たとえば御社のように、すでに事業としては成熟し、次世代育成や自立した組織づくりが課題になってくるフェーズでは、未来に向けた“共通言語”が要るんですよね。」 「まずは 1 回、幹部の方々と一緒に“未来を見える化する場”をつくってみませんか?」 「私としては、そこで何かが“芽生える”きっかけになればと思っています。」
これは、未来を「語り合う」ことでも、「管理」することでもありません。
みんなで「行動」を共有し、実践することで、会社の未来を築いていく。そのための「共通言語」をつくる、ということです。
この「共通言語」こそが、私が中小建設業の経営者様にご提案している行動 KPIです。
まとめ
会社の未来を幹部や社員と共有する「共通言語」として、「行動KPI」を導入することは、多くのメリットを生み出します。
実は、私はこれまで多くの会社で経営支援を行ってきましたが、「KPI」という言葉を使った途端、話が「KPIとは…」という説明モードになってしまう結果、経営者の方が次第に「理屈っぽいな…」「この話、早く終わらないかな」といった表情になっていき、言わんとするところが伝わらない経験を何度もしました。
そこで私は、まずこの言葉を封印し、ひたすら「未来をどうつくるか?」という対話に時間を費やしました。そうして生まれたのが、今回のブログでお伝えした「行動という名の社内共通言語」です。
これは、KPIが管理のためのツールではなく、未来への道筋をみんなで共有し、ワクワクしながら進んでいくためのコミュニケーションツールである、という私自身の気づきから生まれたアプローチです。
皆さんの会社の「未来の地図」を、具体的な「行動」で描くことから始めてみませんか?