工務店の営業を“全社で回す” ― ファストサイクル化のすすめ

中小建設業専門の経営コンサルタント、長野研一です。毎月第三週は、建設会社の営業をテーマに綴っていきます。今回は「全社的活動としての営業プロセスのファストサイクル化」について考えてみたいと思います。


営業が属人的になりやすい理由

工務店の営業活動は、どうしても属人的になりがちです。
例えば、ある営業担当者が顧客対応を丁寧に行えば契約につながるし、対応が雑なら契約が遠のく。成果が人によって大きく違うのです。

その一方で、営業プロセスを言語化して「誰がやっても同じように進む仕組み」にする動きは、まだ十分ではありません。結果として、「あの人がちゃんとやらないから」と原因を個人に求める場面が少なくありません。

しかし、本来は個人の責任よりも、プロセスそのものに原因があることが多いのです。属人的な営業から脱却し、全社で営業を支える仕組みに変えていくことが、ファストサイクル化の出発点です。


ファストサイクル化の本質とは何か

営業のファストサイクル化とは、単に「営業が早く契約する」ことではありません。
むしろ、契約から着工までを滞りなく短くする“前倒し型プロセス設計”こそが本質です。

契約はゴールではなく、スタートラインです。契約後にプラン変更が相次いだり、必要な書類が揃わず建築確認申請が遅れると、着工までの期間が大きく延びてしまいます。その結果、顧客満足も落ち、会社全体の収益にも影響します。

ですから、営業スピードと品質を両立させるためには、契約後に迷子にならないプロセス設計が不可欠なのです。


フェイズごとに整理するプロセス設計

ファストサイクル化にあたっては、単なるチェックリストではなく、建築確認申請までをいくつかのフェイズに分け、フェイズごとにタスクを明示して管理するのが効果的です。

例を挙げましょう。

  • フェイズ1:初期提案・ヒアリング
    顧客要望の整理、敷地情報の確認、標準プラン提示

  • フェイズ2:基本プラン確定前レビュー
    平面・立面図のたたき台、法規チェック、主要仕様決定リスト作成

  • フェイズ3:契約前最終調整
    地盤調査、外構計画の方向性、概算見積確定、申請資料収集

  • フェイズ4:契約〜申請準備
    最終図面確定、仕様決定、確認申請書類作成

  • フェイズ5:確認申請提出〜着工
    確認済証の受領、工程表最終化、工事準備

このようにフェイズで区切ると、各段階での“到達点”が明確になります。
さらに、営業と工務の合意ゲートを設けることで、未確定事項を後回しにしない仕組みができます。


営業と工務の軋轢を減らす仕組み

実際の現場では、営業担当者は「早く契約したい」、工務担当者は「条件が揃わないと進めない」と、しばしば衝突します。

この軋轢を減らすには、

  • 契約前に最低限の確定事項を揃える

  • 営業と工務でゲートを共有する

  • 顧客に早期決定の必要性を理解してもらう

  • 並行作業と情報共有で待ち時間を減らす

  • 共通KPIと短時間ミーティングで進捗を管理する

といった工夫が必要です。

つまり、「誰かが我慢する」のでなく、歯車が自然に噛み合う仕組みをつくるのです。


ワークショップで現場知を吸い上げる

こうしたプロセス設計を“机上の理想”で終わらせないために有効なのが、従業員参加型のワークショップ(意見交換会)です。

ワークショップでは次のような問いかけをします。

  • 「情報が揃わないまま次工程に進む場面はどこか?」

  • 「どんな条件が揃えば次のステップに進めるのか?」

営業・工務・設計それぞれが現実を持ち寄って、納得できる合意ゲートを作るのです。これにより、形だけのルールではなく、“使えるプロセス”が出来上がります。


「できない理由」を掘り起こす

ここで重要なのは、「これからはタスクリストに沿ってやりましょう」と言っても解決しない、という現実を直視することです。

なぜなら、できない背景には必ず理由があります。

  • 人員不足などの時間的制約

  • 顧客情報不足

  • 契約優先や慎重姿勢といった心理的要因

  • 優先順位の食い違い

こうした理由を掘り起こし、構造的に解消しなければ、形だけのルールは定着しません。

改善は“守らせる”のではなく、“やれる環境をつくる”ことです。
そしてコツは、「守る」より「楽になる」改善案を優先すること。人は負担が減る仕組みなら自然に受け入れます。


営業担当者を一人にしない

営業担当者の業務は非常に幅広いものです。
モデルルーム案内、土地探し、資金計画、プラン作成、本契約、融資申し込み、仕様や配色の打ち合わせ…。

この膨大なタスクを一人で抱え込むと、どうしても抜けや遅れが出ます。
だからこそ、営業事務や工務担当がタスクの進捗をつかめる仕組みを整えることが欠かせません。社内のモニタリングやリマインドが機能すれば、営業担当者は本来の役割である顧客対応に集中できます。


まとめ ― 営業は全社の活動

営業のファストサイクル化は、営業部門だけでなく、工務や設計を含めた全社的な取り組みです。

  • フェイズごとにタスクを明確化する

  • 合意ゲートで営業と工務の歯車を噛み合わせる

  • ワークショップで現場の知見を反映する

  • 「できない理由」を掘り起こし、やれる環境をつくる

  • 営業担当者を一人にしない

こうした全社的視点で取り組むことで、営業スピードと品質のバランスを取りながら、着工までの期間を大幅に短縮することが可能です。


続編予告

今回は「営業を全社的活動と捉える」という視点から、ファストサイクル化の基本的な考え方を整理しました。

次回(9月第三週)はさらに踏み込み、「営業と工務が本当に連携するためのKPI設計」について具体的に解説していきます。

 

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