経営コンサルタントの長野研一です。
毎月第一週は、私自身の気づきや学びについて綴っていきます。
経営のご相談を受ける中で、よくこんな言葉を耳にします。
「最近は◯◯が流行ってるらしいですよね」
「このジャンルに伸びしろがあるって、ある人が言ってました」
「一緒にやらないかと誘いがあって、新規事業を考えてるんです」
たしかに、世の中の動向をキャッチすることは大切です。
でも私はこうした話を聞くたびに、心のどこかでザワザワする感覚を覚えます。
なぜかというと――かつての私自身が、まさに“そういう情報”に振り回されていた当事者だからです。
「流行っていること」が、正しいとは限らない
一時期、私のもとにもこうした話が次々と飛び込んできました。
「こんなニーズが出てきていますよ」
「いま、こういうテーマを扱っている人が売れていますよ」
「こういうコンセプトでセミナーやったらいいと思います」
ありがたいことに、私に関心を寄せてくださる方々からの提案でした。
だからこそ、私はその都度、「なるほど、やってみようか」と考えていました。
でも、あとから気づいたのです。
その判断の軸が、いつも“外側”にあったことに。
自分は何者なのか
どんな人に、どんな価値を届けたいのか
そういった問いとは無関係に、私は「市場性」や「話題性」だけを基準に動こうとしていたのです。
振り回されたのは、誰のせいでもない
もちろん、アドバイスをくれた方々に悪気はありません。よかれと思って助言くださったに違いないのです。問題だったのは、振り回された自分の浅はかさです。
当時の私は、「事業ドメイン」や「顧客ターゲット」という言葉を、それこそMBAの教科書のように捉えていました。でも、ふとある瞬間に気づいたのです。
大企業のそれと、スモールビジネスのそれとは、まるで意味が違う――と。
スモールビジネスのドメインとは、自分の人生そのものと地続きのものであるべきなのです。頭で考えることより、「なぜ私はこれをはじめるのか」という動機のほうがよほど大事でだということです。
自分を救った、ある言葉との出会い
そんな時期に、私はある人からこんな言葉をかけられました。
「自分は何のために生まれてきたか、これまで自分を苦しめてきた生きづらさの素が、すべて自分の使命を果たすために備わった“武器”だと思えたときに、あなたは救われるよ」
正直、最初はピンと来ませんでした。
でも、心のどこかで引っかかっていたのです。
その後、何度も何度も、繰り返し自問しました。
自分が苦しかったのはなぜか?
どうして、人の役に立ちたいと思うのか?
誰の力になりたいのか?
そしてあるとき、すっと答えが出たのです。
「ああ、私は“過去の自分”を救いたいんだ」と。
これまでずっと、“どこに向かえばいいのかわからない”という不安を抱えていた。
「誰かに認められなければ意味がない」と思い込んでいた。
そんな自分を、もしも誰かが救ってくれたら――。
そう思える人に、今の自分がなれたなら。
そう思えたとき、ようやく私は、「軸のある発信」ができるようになったのです。
内なる敵は、“変わりたい自分”の影でもある
ここまでお読みになって、「長野さんはもう乗り越えたんですね」と思われるかもしれません。でも、そんなことはありません。
今でも、時折やってきます。
「もっといいやり方があるんじゃないか」
「自分には荷が重すぎるんじゃないか」
「あのとき、もしこうしていれば」
そういう声は、まるで自分の心の奥から聞こえてくるようです。
でも最近は、それが“内なる敵”の声だとわかるようになってきました。
そして同時に、それが“変わりたい自分”の影であることも、ようやく理解できてきました。
本当の軸は、「誰を救いたいか」にある
事業ドメインでもなく、ターゲット市場でもない。
本当に大事なのは、
「自分は、誰を救いたいのか」
「どんな人の、どんな場面、どんな悩みに力になりたいのか」
という問いだと、今では思います。
それが決まれば、あとはその人に届くように動くだけです。
私は、かつての自分のように、「自分の人生を生きている実感のない人」に手を差し伸べたい。そしてその人が、自分の中にある力を信じて、前に進めるようになる手助けがしたい。
その想いが、私の事業の軸であり、発信の原点です。
内なる敵の声に、もう一度耳を傾けてみよう
他人の意見に振り回されるのは、自分の軸がまだ定まっていない証拠かもしれません。
自分が苦しんできた過去を振り返ることは、使命を見出す最初のヒントになります。
「誰を救いたいのか」が明確になると、すべての行動に“意味”が宿りはじめます。
内なる敵は消えません。でも、それは変化の兆し。あなたが成長しようとしている証拠です。
私もいまも、道の途中です。
でも、ようやく「この仕事を選んでよかった」と、心から思えるようになってきました。
もしあなたがいま、何かに振り回されていると感じていたら、
ほんの少し、立ち止まってこう問いかけてみてください。
「私は、誰の力になりたいのだろう?」と。
それが見えたとき、あなたはきっと、自分の“本当の旗”を掲げられるようになると思うのです。