外注の職人に舐められない「自走する現場」のつくり方 ――現場にいなくても尊重される工務店の条件とは

中小建設業専門の経営コンサルタント、長野研一です。
第四週は、中小建設業の現場改善についてお話しします。


ある若手の工務担当者が、外注の職人にこんなことを言われたそうです。

「やったら最初からそう指示してくれりゃいいやねえかえ!」

図面通りに進めてほしいと伝えただけなのに、現場では反発されてしまい、結果的に工務店の方針よりも職人のやり方で施工が進んでしまった――。このような場面は、現場を任されている若手担当者なら、一度は経験があるのではないでしょうか。

今回のテーマは、「外注の職人に舐められない、自走する現場づくり」。

といっても、怒鳴り返したり、威圧的に振る舞うことを推奨するわけではありません。
むしろ、カドを立てずに主導権を取り戻すために、どのような言葉を選び、どのように環境を整えるか。そして、若手担当者を「責める」のではなく、「支える」ために、会社としてどんな体制をつくるべきか。

その両面から、このテーマを掘り下げてみたいと思います。


「なぜ舐められるのか」から出発する

まずは前提として、職人に舐められる原因は、若手工務担当者の「経験不足」だけではない、という点を強調したいと思います。

多くの場合、その背景には、工務店側の体制や姿勢、そして現場マネジメントの仕組みそのものが影響しています。

とくに、以下のような構造的な問題が絡んでいることが少なくありません。

■ 立場に自ずと差が生まれる

職人さんは「手を動かす現場の当事者」、工務担当者は「段取りや調整をする人」。
この構造では、どうしても「自分たちが作ってやっているんだ」という職人側の意識が強くなりがちです。また、適切な指示がタイムリーに来なければ、職人さんからみれば「工務店に振り回されている」フラストレーションが沸いても不思議はありません。

■ 力関係の曖昧さ

繁忙期になると、外注職人の方が工務店を“選ぶ”立場になることすらあります。
そうなると、「お願いベース」が常態化し、指示や段取りが通りにくくなります。

■ 人間関係の距離感の失敗

「現場を穏便に回したい」「仲良くしたい」という思いが先に立ち、対等以上の関係を築いてしまうことも原因です。
いつしか、指示が聞き流されたり、工務店の方針が軽んじられたりするようになります。

こうした背景を見れば、「舐められる問題」は担当者個人の問題ではなく、会社としての現場管理の文化や構造に起因する部分が大きいといえるでしょう。


「お願い」ではなく「依頼」に変える

現場でのやり取りにおいて、「言い方ひとつ」で相手に与える印象は大きく変わります。
下記はよくある言い回しの違いです。

シーンNG表現OK表現
作業の依頼「すみません、これお願いできますか?」「こちらの仕様でお願いします。ご確認だけお願いします」
図面変更時「申し訳ないのですが、変えてもらえますか?」「こちらが最新の図面ですので、こちらに基づいてお願いします」
意見が違うとき「僕はこう思いますが…」「会社としては、こちらの判断で進めることになっています」

重要なのは、「敬語を使うこと」ではなく、主導権を持って依頼することです。
「下手に出る」のではなく、「丁寧に伝える」。この違いが、信頼される第一歩になります。


参照できる図面があるかどうかで、現場は変わる

実は、職人の思い込みによる施工ミスの多くは、図面や手順書が「見られない」ことに原因があります。

たとえば、注文住宅に特殊な建具を取り付けるときに、メーカーの説明書を読んで進めれば問題ないものを、過去の他のメーカーの建具取り付け経験があるからと見よう見まねでやったりすると、手戻りによるロスが大きくなってしまいます。

現場に図面がなかったり、ファイルが散乱していたり、手順書が工務事務所に置きっぱなしになっていたり…。こうした環境では、職人が「いつものやり方」で作業を進めてしまっても無理はありません。

そこで重要になるのが、「すぐ見られる」「探さなくて済む」しくみづくりです。

◎ 具体的な対策例

  • DropboxやGoogle Driveに図面・仕様書を保存し、LINEで職人にリンクを送る

  • 図面に「変更点」や「注意事項」を赤字で記入し、スマホで撮って送る

  • 特殊な施工は、手順動画やメーカーの説明書PDFへのQRコードを貼っておく

つまり、「指示を出す」前に「見られる環境をつくる」ことが、自走する現場づくりの出発点です。

むろん、「手順が守られない」問題には、手順書が容易に参照できないという環境整備不足の面と、適正な手順を踏んで仕事を進めようという意識の欠如の両面があります

ですが、タイムリーに「これがメーカーの説明書です」とタブレットで示せないとしても、事前に『この現場にはメーカー指定の特殊なドア施工がありますので、メーカーの説明書通りの取り付けをお願いします。』と注意喚起することはできますよね。


職人を「やらされる人」から「考える人」へ

自走する現場とは、すべてを指示せずとも、職人自らが状況を判断して動ける状態のことです。
そのためには、「相手を信頼し、任せる」ことが欠かせません。

たとえば、現場の立ち上げ時にこんなひと言をかけてみてください。

「〇〇さん、今回の現場でスムーズに進めるために、注意しておいた方がよさそうな点って何かありますか?」

このように、「聞かれる側」から「一緒に考える側」に立場を変えてもらうことで、職人の意識も変わっていきます。「やらされている」感覚ではなく、「任されている」感覚が、自発性と責任感を引き出すのです。


若手担当者を守るのは、会社の責任です

最後に強調したいのは、「現場で舐められる問題」に向き合うとき、
その矢面に立たされる若手担当者を守るのは、会社の責任であるということです。

担当者が現場で萎縮したり、独断で職人に譲歩してしまう背景には、

  • 判断の根拠となる「社内の共通ルール」が存在しない

  • 問題が起きたときに「一緒に考えてくれる上司」がいない

  • トラブルのたびに「なぜ指示できなかったのか」と責められる空気がある
    といった構造的な要因があるのです。

■ 経営者・幹部ができること

項目内容
方針の明文化指示命令のルールや判断基準を社内文書にまとめる
トラブルの振り返り担当者を責めるのではなく「なぜ現場が動かなかったか」をチームで分析する
サポート体制ベテランの同行や、Slack・LINEでの即時相談体制をつくる

工務担当者が「会社を背負って現場に立っている」と感じられるような支援体制が、最も重要なのです。


主導権は「言葉と仕組み」で取り戻す

職人に舐められない現場とは、怒鳴って従わせる現場ではありません。
信頼と役割分担がはっきりした、チームとしての現場です。

  • 言い方を変える(お願い → 依頼)

  • 環境を整える(見られる図面・手順書)

  • 関係を変える(やらされる → 任される)

  • 背中を支える(会社の体制と姿勢)

この4つを整えていくことで、若手でもベテランでも、
現場で信頼され、尊重される工務担当者になれるのです。

そしてその先にあるのが、「自走する現場」「工務店としての組織的成長」です。

ぜひ、御社でも次の現場から一つずつ取り組んでみてください。

今回は、外注の職人さんに舐められない「自走する現場づくり」の第一歩として、
丁寧な言い回しの工夫や、主導権を保ちながら関係性を築くための考え方をご紹介しました。

とはいえ、現場が“勝手に回る”ようになるわけではありません。
本当の意味での「自走」とは、ただ任せることではなく、情報の流れや判断の基準、習慣そのものをどう育てるか――そこに鍵があります。

このあたりは、次回の続編でじっくり掘り下げたいと思っています。
どうすれば、「現場にいなくても現場が動く」ようになるのか?
日々の仕組みや習慣をどう整えていくのか?
引き続き、実践のヒントをお届けしてまいります。