「ギリギリまで動けない」を卒業するために ──“考え抜く人”と“追い込まれてから考える人”の違いとは?

先月から、第二週は「社長の“経営習慣”と実践知見」をテーマにお届けしています。

今月は、「ギリギリまで動かない悪習慣を断つ」というテーマでお話しします。
誰もが心当たりのあるこのテーマ。
「動かなきゃとは思っているんだけど…」
「まだ時間があるからもう少しだけ」
気づけば締切や期限が目の前に迫り、ようやく腰を上げる──そんな経験を、私自身も何度もしてきました。

ただ、ここで一つ問いかけてみたいのです。

今の状態を続けたままで、欲しい結果が本当に手に入りますか?


一流と二流の分かれ目は「ギリギリ」の違いにあり

『この1冊で技術者不足を乗り切る建設事務スタッフ育成マニュアル』(降簱達生・中井良太著、日経コンストラクション・日経クロステック編)の中に、こんな一節があります。

「一流の建設技術者は、現場で想定外の問題が発生しても、慌てず専門家に相談し、ヒントを得て、ギリギリまで考え抜いて最適な対応を見つけ出す」

この「ギリギリまで考え抜く」という姿勢。
実際には、追い詰められる直前まで何もしていないわけではありません。
静かに、でも真剣に状況を観察し、情報を集め、いくつもの可能性を頭の中でシミュレーションしているのです。

一方で、「ギリギリになってから考える」人は、考える準備ができていないまま時間を過ごし、締切直前になってからあわてて手をつける。
この違いは、行動の量というより、「時間の使い方」の質にあると思います。


「動けない」には、その人なりの理由がある

私は日々、多くの建設会社の経営者の方々と接していますが、「なかなか動けない」と悩む方を責める気持ちはまったくありません。

実は、動けない理由は人によって少しずつ違います。

たとえば…

  • 頭の中で完成形が見えないと不安で動けない人がいます。
     全体の構想がまだあいまいだと、「こんな状態で始めても…」と足が止まってしまうのです。

  • 誰かに一度確認したり、話を聞いたりしないと進められない人もいます。
     「ちゃんと説明できるようになってから」や「もう少し整理してから」という言葉が口ぐせだったりします。

  • なんとなくしっくりこない、気分が乗らないという感覚が強い人もいます。
     気持ちが動かないと、体も動かない。頭ではやらなきゃと分かっていても、心と体がついてこないのです。

こうした「動けない理由」に、もちろん優劣はありません。
ただ、自分がどんなときに動けなくなるのかを知っておくと、それに合った対処ができるようになります。


「私自身は、こうしています」を語りたい

立場こそ違え、私自身も決して行動派タイプではありません。
むしろ、思い悩んで動けないことの多い人間でした。
だからこそ、「どうすれば自然に動き出せるか」を日々、工夫しています。

たとえば、週のはじめに「これだけはやろう」と重要不急な行動目標を書く。
誰かに「仮の成果物だけど見てほしい」と共有してみる。
ほんの一歩踏み出すことで、流れが生まれ、気持ちもついてきます。

そして、私がコンサルティングの現場で大切にしているのは、こうした「私自身のやり方」をそっとお伝えすることです。

「私自身は、こんなふうにやっています」
「最初から完成形じゃなくていいので、まずはここから始めるかもしれません」

こう語ることで、社長さまご自身の中にある“当てるか外れるかの一発勝負”の感覚をほぐし、「まずはやってみる」「やりながら考える」というスタイルへと自然に移行してもらえるのではないか──そんな期待を込めています。

大前提として、私自身が私なりの実践をしていなければ、ここで「私はこうしています」をお伝えすることはできませんけれど。


判断ではなく、「その判断を支えている前提」に目を向ける

ときどき、「そのやり方じゃ通用しないですよ」と言いたくなる場面もあります。
ですが、私はその言葉を口にすることはありません。
それでは相手を守りに入らせてしまうだけだからです。

私が注目しているのは、「なぜ、その判断を繰り返しているのか」という“前提”です。

たとえば、ある社長さまが「まだ踏み出すには早い」と言ったとき、それは慎重だからではなく、「一度決めたらもう後戻りできない」と思い込んでいるからかもしれません。あるいは、「自分が動かないことで誰かの役割を守っている」つもりになっている場合もあります。

こうした“前提”が少し変わると、判断そのものも自然に変わっていくものです。


小さな行動が、組織の習慣を変える

私はこれまで、たくさんの社長さまと一緒に「変化の最初の一歩」を踏み出すお手伝いをしてきました。

  • 営業目標先を一社だけ決めてキーマンにお会いする

  • 従業員との個別面談をテスト的にでもはじめてみる

  • 今期の重点工事分野と受注目標を決めて従業員に協力を求める

どれも小さなことですが、こうした行動が日常に根づいてくると、社員たちの行動にも少しずつ変化が現れます。


「いままでのやり方」が通用しなくなった今だからこそ

世の中の変化は加速度的に進んでいます。
過去にうまくいったやり方が、今も通用するとは限りません。
むしろ、過去の成功を“神話”のように抱えていると、変化に乗り遅れてしまいます。

大切なのは、その成功の「構造」を要素分解し、いまの人材・いまの環境でも再現できる形に翻訳していくことです。
それこそが、私たち経営者やコンサルタントの腕の見せどころだと思っています。


さいごに:いまの延長線上に、あなたの望む未来はありますか?

もしあなたが、「いまのままでは少し不安だ」と感じているなら、
今週、たった一つだけでも行動を変えてみませんか?

「ギリギリまで動かない」から「ギリギリまで考え抜く」へ。
一歩を踏み出すあなたの横で、同じように私も、次の一歩を探し続けています。