「この指とまれ」が言えるようになるまで――私がこれを始めた本当の理由

はじめに:「なぜその仕事をやるのか」という問い

先日、起業を目指す方々の前でお話しする機会がありました。時間にして10分ほどの短いものでしたが、私はこんな話をしました。

「私自身の経験、そして多くの起業家や経営者を支援してきた中で、ひしひしと感じていることがあります。それは、“なぜ自分はこの事業をやるのか”という問いに対して、自分なりの“答え”を明確に持っている人ほど、困難に直面しても踏ん張れるということ。そして、そんな人の周りには自然と応援者が集まってくるということです。」

なぜか。それは、その“答え”が「自分のため」だけではなく、「誰かのため」に向けられているからです。目線がほんの少し高くなると、使命感が背中を押してくれる。そして、旗を掲げる人のもとには、その旗に共鳴する人たちが集まってくる――私はそう信じています。

しかし、残念ながら、そのときの参加者の方々には、あまり響かなかったようでした。けれど本当のところ、それも当然だと思っています。


知識を得ることだけに夢中だった私

というのも、かく言う私自身が、かつてはそうだったからです。

起業して間もない頃の私は、ひたすら「USP(独自の売り)は何か」だとか、「ターゲット顧客をどう絞るか」だとか、「どんなプロモーションが効くか」といったことばかりに意識が向いていました。今振り返れば、目の前の売上を得るために「どう戦うか」ばかりを考えていて、「なぜこの道を選んだのか」という根本的な問いには、目を向けていなかったのです。

でも、あるときふと立ち止まってみると、「このままでいいのか」という漠然とした不安に包まれるようになりました。業績はまずまず。お客様の評価もそこそこ。でも、なぜか心の底からの充実感がない。そんな自分に気づいたのです。


本気になれる「何か」がなかった

その理由は、今ならよく分かります。

私は、「自分のため」にしか動いていなかったのです。

もちろん、自立した生活をしたい、家族のために収入を安定させたい、専門家としてのポジションを築きたい。そういった個人的な動機も大切です。でも、それだけでは本気になれない。「ここ一番」という時に、力を出し切れない。

そのことを、私は身をもって知りました。

人は、「自分のため」だけでは突き動かされないのです。「誰かのために」という想いがあるとき、驚くほどの力を発揮できる。その実感が、自分の中に少しずつ育ってきました。


転機になった“ある言葉”

もう7年ほど前のことです。ある方にこう言われました。

「あなたは、如才ないようでいて、『俺もお前の領分には入らないから、お前も俺の領分には入ってくるな』と感じさせるところがある。だから、人はあなたに近づけない。でも、内心では『この指とまれ』と言いたい気持ちがあるでしょう? あなたが自分のまわりに作っている“壁”を取り払わなければ、人はその指に止まれませんよ。」

その言葉に、ハッとさせられました。

私は、人に囲まれているようで、実は誰とも深くつながっていなかったのではないか。選ばれること、褒められること、競争に勝つこと。そんな「他人の評価」を物差しにして、自分の存在価値を測っていたのではないか。

そのことを自覚してから、「私は本当は何がしたかったのか?」という問いに向き合うようになりました。


ライフワークとしての「この指とまれ」

今、私は「この指とまれ」と言える人になりたいと思っています。

そして、自分と同じように「心のどこかでそう思いながらも、行動に移せない人たち」の受け皿になるような場所を作りたい。そんな思いから、今、小さなコミュニティづくりに取り組んでいます。

コミュニティの仮の名を「なぜはじ」としました。

これは、ふたつの意味で私のライフワークです。

一つ目は、まわり道をしてきた私自身の経験を、あとに続く人たちのために役立てたいという思い。二つ目は、「この指とまれ」と言える人になることが、私自身の成長目標であるということ。


「未完成の価値」に光を当てる場を

「なぜはじ」の最初のゴールは、「私はなぜこの仕事を始めたのか?」という問いに対して、自分にも第三者にも説得力をもって語れるようになることです。

これは単に経営戦略やマーケティングの話ではありません。「自分の人生の意味を、自分で認める」という、もっと根源的な問いです。

私自身も、今の仕事スタイルに至るまでの道のりで、経営理論や分析フレームワーク以上に、「人生の蹉跌を見つめ直すこと」が大きな気づきを与えてくれました。

私たちは、自分の過去に対して、「あのときの苦労があったから、今がある」と意味づけができたとき、初めて前に進めるのだと思います。


結果より「内容」を大切にしたい

将棋の藤井聡太さんがこんな言葉を残しています。

「結果ばかりを求めていると、結果が出ないときにモチベーションを維持するのが難しくなってしまう。結果よりも内容を重視して、新しい発見をしていくことがモチベーションにつながる。」

この言葉には、私たちのような仕事に関わる人間にとって、大きなヒントがあります。

「なぜ自分はこの仕事をやっているのか」が明確になると、結果だけに一喜一憂することがなくなります。失敗さえも意味のあるプロセスになる。そうなると、自然と継続できるようになるのです。


あなたがこの仕事を選ぶ理由は?

「お客様があなたを選ぶ理由」は重要です。しかしそれ以上に、「あなた自身がこの仕事を選ぶ理由」は、実はお客様の心にも響くのです。

たとえ言葉を飾っても、心の内にある「手っ取り早く儲かりそうだから」「起業家に憧れがあったから」といった動機は、相手に見抜かれてしまいます。

「私はこれをやりたくて、ここに来た」という思い。その言葉には、他のどんなテクニックよりも強い説得力があります。


最後に:あなたと一緒に始めたいこと

「誰かが応援してくれるから始める」のではなく、「私はこれをやりたかったんだ」と胸を張って語れる人。そんな人を育てる場をつくるのが、これからの私の仕事だと思っています。

私は、そんな人を一人でも多く増やしたい。自分の内にあるモヤモヤに決着がつけられずにいる人に、早く気付いてほしい。

そして、その最初の仲間に、あなたもなっていただけたら――。

心から、そう願っています。

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