営業が響かない理由、伝わらない工務店の“届け方”とは?――100棟企業と5棟企業の分岐点

中小建設業専門の経営コンサルタント、長野研一です。 

こんにちは、中小建設業専門の経営コンサルタント、長野研一です。

今回は、戸建住宅を施工する工務店の「営業アプローチの落とし穴」に焦点を当てます。特に、年間100棟を超える企業と、年間5棟前後の地域密着型工務店とでは、販促の手法が根本から異なるべきです。この点を軸に、営業の本質を深掘りしていきましょう。

「営業が苦手」で済ませない! 行動しないことが最大の損失

「営業手法に確信が持てない」「まだチラシができていないから」――こんな言葉を聞くたびに、人は行動できない理由を考えるのが得意だと感じます。だからこそ、私たちは「行動できるマインド」を育む能力を磨く必要があります。

本来、営業活動は「売ること」ではなく、「聞くこと」そして「伝えること」です。特に、商品性で明確な差別化が難しい工務店の世界では、顧客に「なぜ当社を選ぶべきなのか」を明確に伝えることこそが、最も重要な営業行動と言えるでしょう。

「俺には俺のやり方がある」「うちはこれでやってきた」と主張する営業担当者もいるかもしれません。もしそれで成果が出ているのなら問題ありませんが、もしそうでないなら、その姿勢を問い直す必要があります。明確な打ち手が見えているなら結構ですが、そうでないなら、これまでのやり方が通用しなくなっていることに気づくべきです。


プッシュ型営業は“終わった”のではなく、設計が甘かった

「プッシュ型が効かないからプル型へ」という話をよく聞きますが、プル型には高コストで長期戦になるという特性があります。これを安易に採用するのは、資金力がものをいう競争環境に、自ら飛び込むことにもなりかねません。

むしろ、経営資源が限られている会社ほど、プッシュ型の再設計が必要です。例えば、以下のような再設計は、低コストかつ高密度な顧客接点の形成につながります。

  • 土地探しガイドブックなどのプレゼント企画:顧客が気軽に手に取れる情報提供で、興味を引きつけます。

  • 体験型イベントを組み合わせた無料相談会:一方的な説明ではなく、顧客が能動的に関われる場を提供します。

ポイントは、お客様がプレッシャーを感じずに、工務店との接点を持ってもらえるような、心理的ハードルの低いオファーを工夫することです。いきなり「ホット客の追客を始める」といった厳しいゴール設定をしてしまうと、アイデアの幅が狭まります。まずは、顧客教育で顧客の気持ちを温め、テストクロージングで追客ランクを見極めることを念頭に、「当社だけのホットリスト」の充実を目指すくらいが現実的です。


年間100棟の会社と5棟の会社、戦略が同じでいいわけがない

年間施工棟数が違えば、当然、戦い方も異なります。

年間100棟を超える規模の会社であれば、広告展開やブランド認知の戦略が有効です。一定の反響を前提とした“待ちの営業”も成立するでしょう。

一方、年間5棟前後の会社が同じ戦略をとるのは危険です。そもそも「知られていない」段階では、プル型だけでは反応が来ません。リアルな接点を意図的に作る“聞きに行く営業”が要となります。

ここで誤解してはいけないのは、「小さい会社だから営業ができない」というわけではないということです。むしろ、規模が小さいからこそ、営業を丁寧に積み重ねられる強みがあるのです。


最大公約数を狙った発信がすべてをぼかす

ホームページに「家族みんなが笑顔になる家づくり」といったコピーを載せても、心には届きません。それは、“誰に対しての言葉か”が不明確だからです。

ターゲットを明確にせずに「全部対応できます」というのは、営業メッセージの力を分散させます。顧客に響くのは、自分の悩みを代弁してくれる言葉、つまり「自分ごと」と感じられるメッセージなのです。


「ブランディング=魔法の言葉」ではない

最近、「ブランディング」という言葉が一人歩きしている感がありますが、実体がないまま取り組むと「何をしていいかわからない」施策に陥りがちです。

現時点でやるべきは、目の前のボトルネックを地道に改善することです。

例えば:

  • 「問い合わせはあるが成約につながらない」 商談時に「このまま進めるとすれば、いつ頃の完成をお考えですか?」といったテストクロージングを実施していますか? お客様の琴線に触れるキラーフレーズを効果的に使っていますか?

  • 「モデルハウスに来場はあるが再来場が少ない」 単なる「建物の説明」で終わっていませんか? 再来場を促すには、**「あなたの理想と現実に合った設計プラン」**と感じさせる仕組みが必要です。未来イメージが具体的に描けるほど、「また話を聞いてみたい」と感じてもらえる動機付けが強まります。

  • 「資料請求だけで終わる」 資料と一緒に送る手紙に「社長の直筆コメント」「地元の人に聞いた家づくりの本音」などを添えることで、機械的な送付ではなく「あなたに向けて送った」という文脈が加わります。実際にこれを試した会社では、資料請求からの来場率が1.5倍になったという結果もあります。

こうした、地に足のついた改善が、営業現場の感度と成果の両方を高めるのです。


最後に:営業からしか得られない“価値”がある

住宅という高単価商材においては、営業活動こそが最も重要な「情報収集の現場」です。

訪問、対話、ヒアリング、リアクション。そこから得た知見は、販促物の改善や、ホームページの導線見直し、さらには商品企画にもつながります。

営業は「売る」ことではなく「観察する」こと。そして、「聞くことで商品を磨き、届け方を調整する」こと。それこそが、工務店経営における営業の本質です。

「営業ができない」のではありません。「“何を聞きに行くか”を決めていない」だけなのです。「いまの営業手法に確信が持てない」と言っているだけでは、確信にはたどり着けません。

あなたの会社が建てる5棟は、誰に、何を届ける5棟ですか?

それが、営業戦略のすべての出発点になるはずです。