「強みの横展開」で道が開ける──クロスSWOTと生成AIを活かした初回面談実践記

はじめに──焦りの裏にある、本当の力

経営者の方と初めてお会いするとき、私は必ず意識していることがあります。それは「焦りの正体を見誤らないこと」です。

先日、ある建設会社の社長と初めてお話をしました。現場では社員の皆さんが一丸となって頑張っておられ、社内の士気も高いとのこと。しかし、社長ご自身の表情や言葉の端々から、業況に対する手詰まり感や焦りがにじんでいました。数字の話に入る前に、まず私はこうお尋ねしました。

「御社のことを教えてください。これまでの“よかった話”“褒められた話”“喜ばれた話”など、なんでも結構です。」

いきなり課題や数字の話から入ってしまうと、お客様は防御的になります(しかも、いつもそこから話が始まっているはずです)。ですが、“よかった話”を語っていただくと、お客様の表情が和らぐだけでなく、アタマも回転し始めます。それは、会社が持っている本当の力――つまり「隠れた強み」が浮かび上がってくるきっかけになるからです。


クロスSWOT分析──強みとチャンスを“かけあわせる”

この初回面談では、業績の話は一切しないと最初に宣言しました。そのかわりに、企業概要の聞き取りがてら取り組んだのが「クロスSWOT分析」です。ですが、「クロスSWOT分析をしましょう」とは言わず、次のように語りかけました。

「これまで経験したいろいろなことから、御社の隠れた強みと、これからのニッチなチャンスのありかを浮かび上がらせてみませんか。これらを組み合わせて、有望な方向性シナリオを描いてみましょう。その中で、社長がいちばんピンとくるものを深掘りして行こうではありませんか。」

SWOT分析とは、「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の4つの視点から会社を捉える方法です。このうち最も重要な「強み × 機会」に集中し、どんな戦い方が有望かを探ることにしています。

たとえば、以下のように考えます。

  • 強み:職人が人懐っこく、お客様からの評判がとてもいい

  • 機会:住宅リフォームの中でも、一定の高齢者層に「話を丁寧に聞いてくれる会社」が選ばれている

→ ならば、“会話力”のある職人を前面に出した高齢者向けのリフォーム営業を仕掛けられないか?

このように「かけあわせ」で未来を描くのが、クロスSWOT分析の醍醐味です。


生成AIの活用で、“話しながら見せられる”時代に

今回の面談では、事前に生成AI用の「チェーンプロンプト」を用意しておき、面談中に社長の言葉を聞きながら、その場でファクト(事実)を入力していきました。分析の瞬間はまさにライブです。

生成AI(今回用いたのはChatGPT)にそのまま入力すると、数秒でクロスSWOT分析の一次案が生成されます。それを画面で共有しながら、「さあ、こういう方向性が浮かび上がってきました。どれがピンときますか?」とお尋ねするのです。

この進め方のメリットは3つあります。

  1. 対話に集中できる
     私は「聞くこと」に専念し、ChatGPTが「整理すること」を担ってくれます。

  2. スピード感が出る
     思考停止せず、すぐ初期仮説を提示できます。お客様を疲れさせることもありません。

  3. “見える化”が早い
     言葉だけでなく、図式的な構造や方向性をその場で見せられるので、社長も直感的にイメージを掴みやすくなります。


「横展開」の価値──強みは一点突破ではなく、広げてこそ活きる

この会社は、正直なところ、技術的には際立った強みがあるわけではありませんでした。けれど、初回面談で浮かび上がった「有望な強み」が一つありました。それは、ある分野の顧客からの「絶大な信頼」です。もちろんこの「絶大な信頼」の背景には、他社が持たない暗黙知があるわけです。

そこで私がご提案したのは、この“信頼”という無形の資産を、他の顧客層やサービスにも「横展開」できないかという視点です。

  • この信頼を別の同種の顧客案件にも活かす

  • 他分野の施設工事にも応用していく

  • 信頼を生むプロセスを言語化し、営業資料や社員研修に使う

「横展開」という考え方は、一点の強みに依存せず、それを軸に多方面へと派生させる戦略です。特に、資源が限られた中小建設業にとって、これは極めて実践的で再現性の高いアプローチになります。


ファーストタッチは「答えを出すこと」が目的ではない

経営コンサルタントとして、初回面談で「答え」を出そうとすると、どうしてもこちらが説明モードに入りがちです。けれど、お客様にとって本当に価値があるのは、「共に見立てを描く」プロセスです。

だから私は、初回面談では次のようなスタンスを取るようにしています。

  • 話を“引き出す”ことに注力する

  • 無理に方向性を決めつけない

  • 仮説を提示して、一緒に「選ぶ」

今回の面談でも、「この強みは横展開できそうですよね」といった選択肢を提示することで、社長自身が「ああ、それならできそうだな」と自然に前のめりになられました。


コンサルタントとは、「その気にさせる」存在

多くの人が「コンサルタント」という言葉に対して、「こうすればいいんだよ」と道筋を教えてくれる人というイメージを持っています。もちろん、方向性の仮説や打ち手の提案は大切です。しかし、私が本当に大事にしているのは、「その気にさせること」です。

なぜなら、どれだけ正しい答えを提示しても、経営者が納得し、腹落ちして、行動に移そうと思わなければ何も変わらないからです。

私は、こう考えています。

「コンサルタントとは、第一歩を踏み出させる人であり、
一緒にいるとアイデアと勇気がわいてきて、決断できるようになる存在である」と。

つまり、「正解を教える先生」ではなく、「行動を引き出す伴走者」こそ、現場で本当に価値を生むコンサルタントだと信じています。

だからこそ、初回の面談では特に、「気持ちが動く瞬間」を一緒につくることを重視しています。そのためにも、ファクトを大切にし、言葉にならない強みを浮かび上がらせ、未来への選択肢を一緒に見つけることに力を注いでいるのです。