売上につながる営業は、こうして“仕組み”になる ~感覚頼りから抜け出す行動習慣の整え方~

中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。
毎月第三週は、建設会社の営業をテーマに綴っていきます。


なぜ、営業の「行動」を見つめ直す必要があるのか

建設業の経営者とお話をすると、こうおっしゃる方が少なくありません。
「うちは、紹介で仕事が回っているから特段の営業はしていない」と。

実際、それでやっていける会社もあります。しかし、多くの場合、それは「営業していない」のではなく、「営業活動が形式化されていない」「成果の背景が言語化されていない」だけのことです。

もし仮に、今の売上が右肩上がりなら、あえて動きを変える必要はないかもしれません。でも、もし売上が伸び悩んでいたり、次の打ち手が見えなかったりするのであれば――やはり営業の「行動」に目を向けることが避けて通れません。


売上は“行動”の積み重ねでできている

売上を伸ばしたい。
そのためには、まず受注を増やさなければなりません。
受注を増やすには、見積もりを依頼してもらう件数を増やす必要があります。
そして、見積もり依頼は、訪問や電話などの営業接点の中で生まれます。

つまり、こうなります。

「売上を伸ばす」=「受注を増やす」=「見積もりを増やす」=「訪問を増やす」

とてもシンプルです。では、訪問をどうやって増やせばいいのでしょうか。


訪問件数を増やすために必要なのは、「意図」と「計画性」

訪問を闇雲に増やすのは得策ではありません。大切なのは、意図を持って計画的に動くことです。

例えば、こんな工夫をしている会社があります。

  • 毎週水曜日は隣県の営業先を回ると決めている

  • 月曜日と木曜日は午前に現場まわり、午後に設計事務所を訪問する

  • 金曜日の午前中は、社内でその週の営業成果を共有する

こうして曜日ごとのパターンを作っておくことで、行動のリズムが生まれます。
また、社内で共有しやすくなり、「動いていない営業」が可視化されます。


「どこに、どう訪問するか」より「なぜそこに行くのか」

訪問件数をただ増やすのではなく、「戦略的に訪問する」ことが大切です。

たとえば――
・現在進行中の現場のある工務店を再訪問する
・入札情報から、次の大型案件の動きを察知して訪問する
・以前に断られたが、そろそろ時期が来たと思われる相手に再訪問する

こうした動きには、必ず「仮説」があります。
仮説があるから、訪問後のフォローも明確になるのです。
営業とは、単なる「数打ちゃ当たる」ではなく、「仮説をもとに行動して、その結果を検証する」仕事なのです。


営業の“質”を上げるとはどういうことか

ここまでは、営業の“量”について見てきました。
次は、“質”について考えてみましょう。

営業の質とは、簡単に言えば、相手の信頼を得られるかどうかにかかっています。

信頼を得るにはどうするか?
それは、相手に「こいつはわかっているな」と思ってもらうことです。

そのためには、こんな準備や心がけが必要です。

  • 現場所長の性格や関心を把握して、雑談で自然と話題にする

  • 設計図を事前に読み込んで、「この納まり、コスト面でもう一案ありますよ」と提案する

  • ニュースや業界誌などから、相手の役に立ちそうなネタを仕入れていく

こうした「ちょっとしたひと手間」が、他社との違いになります。


VE提案は「図面を読む時間」を確保するところから始まる

営業の差は、事前準備の差です。
とくに、VE提案(価値を下げずにコストを下げる提案)を行うには、図面をよく読み込んで、別案を検討しておく必要があります。

ところが、実際には「日々の業務に追われて、準備の時間が取れない」という声が多く聞かれます。

そこで大切になるのが、社内でのデスクワークの合理化です。
たとえば:

  • 見積作成はフォーマットとデータテーブルを整備して、入力負担を軽減する

  • 社内報告は音声入力でメモを残し、後で事務担当に整理してもらう

  • 類似案件のVE事例をデータベース化し、検索できるようにする

営業に集中するためには、こうした“仕事の整理”が裏側に必要なのです。


成果につながる行動を「習慣」にしていく

ここまでで、営業の量と質、それぞれのポイントを見てきました。
これを実際の行動に落とし込むには、次のように行動を「数字」で管理すると効果的です。

たとえば、ある会社ではこんなルールを運用しています。

  • 【出張営業】毎週水曜日は隣県への出張営業日。最低3件は訪問する

  • 【VE提案】攻略したい案件のうち4割には、何らかのVE提案を行う

  • 【営業件数】週あたり10件の訪問を目標とし、そのうち2件は新規先とする

これらはすべて、「こうすれば成果が出やすくなる」と見込まれる行動の数値化です。


これが「行動KPI」です

これまでお話してきたように、営業の成果は、量的・質的な行動の積み重ねでつくられます。
その「成果につながりやすい行動」を、あらかじめ定量的に決めて、継続的にチェックできるようにしたもの
これが、私の言う「行動KPI」です。

ここで、一般的なKPIについても触れておきましょう。

KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では「重要業績評価指標」と訳されます。
つまり、最終的な成果を出すために、途中段階でチェックする“中間指標”のことです。

たとえば、

  • 月間売上目標:2000万円

  • 粗利率:25%以上

  • 受注件数:8件

こういった数字は、どれもKPIです。
これらの指標は、「成果の指標」とも言えます。

これに対して、行動KPIは「成果を生み出す行動自体を定量化した指標」です。
成果が出るかどうかを待つのではなく、行動の段階で先回りして改善できるようにする
ここが最大の違いです。

たとえば、「受注を8件取りたい」と考えたとき、

  • そのためには見積提出が15件必要で、

  • そのためには営業訪問が40件必要で、

  • そのためには準備を伴った提案が20件必要、

という流れがあるとすれば――
その一つひとつの行動を具体的に定め、「それができたかどうか」を確認していくのが、行動KPIなのです。


建設会社の営業部門における行動KPIの例

実際に、建設会社の営業部門では、以下のような具体的な行動KPIを設定することで、営業活動を“成果につながる動き”へと変えていけます。

【1】訪問・接点に関する行動KPI

  • 週に10件の訪問営業を実施する(うち2件は新規先)

  • 主要顧客へのフォローアップ電話を毎週金曜午前中に一斉実施

  • 現場所長との月1回の雑談タイムを確保(10分でも良い)

【2】VE提案・提案活動に関する行動KPI

  • 攻略案件の4割以上でVE提案を実施する

  • 提案書の作成を営業担当が週1件は担当し、所内レビューにかける

  • 図面の読み込み時間を週2回・各1時間、必ずスケジューリングする

【3】情報収集・準備活動に関する行動KPI

  • 週に1回、業界ニュースや最新資材情報をチームで共有

  • 新規案件の公募情報を火曜午前にチェックし、3件ピックアップ

  • 設計事務所・工務店へのアプローチ先を毎月5件選定・更新

【4】行動計画に関する行動KPI

  • 「毎週水曜日は隣県の出張営業日」として予定をブロック

  • 営業活動予定は、毎週月曜日の朝にスケジュールへ反映

  • 週末に翌週の訪問リストを作成し、共有フォルダに保存

こうした行動KPIは、担当者個人がやるべき行動を「自分ごと」として明確化し、習慣化するツールでもあります。
また、チームで共通の指標をもつことで、「見えない営業」を「見える営業」に変えることができるのです。


営業を「感覚」から「再現可能な仕組み」へ

成果が出ない営業は、「なぜうまくいかなかったのか」が見えづらく、本人もまわりも改善の糸口をつかみにくいものです。

だからこそ、

  • どんな動きをしたのか

  • 何に時間を使ったのか

  • どこに接点を持ったのか

といった行動レベルに光を当てて、指標化していく必要があります。

行動KPIは、営業活動を「感覚」ではなく「再現可能な仕組み」に変えてくれます。
営業の成果を、偶然ではなく「必然」に近づけていく。
それが、行動KPIの本当の価値です。