「生成AIって、あれすごいですね!」
最近、SNSを眺めていると、生成AIに夢中になっている方を多く見かけます。中には「これで何でも教えてもらえる」「自分の知らないことをどんどん答えてくれる」と、まるで“魔法の箱”のように期待されている方もいらっしゃるようです。
しかし結論から申し上げると、生成AIの答えの“切れ味”は、それを使うあなた自身の意識と問いかけの質を映し出したものにすぎません。生成AIとは、忖度も補足も一切しない、“聞かれたことにだけ正確に答える秀才”なのです。
質問の“質”が答えの“質”を決める
生成AIは、質問に対して文脈を理解しながら答えてくれます。ただし、その前提となる情報が曖昧であれば、返ってくる答えもまた曖昧になります。
たとえば、マーケティングの基本に「3C分析」というフレームワークがあります。
Customer(顧客・市場)
Competitor(競合)
Company(自社)
この3つの視点から環境分析を行い、自社の戦い方を明確にしていくものですが、生成AIに「うちの3C分析をして」と頼んでも、一般論しか返ってきません。なぜなら、生成AIはあなたの会社の顧客像も、強みも、提供条件も知らないからです。
情報を与えないと、生成AIは動けない
たとえば以下のような具体的な情報を与えると、生成AIの答えは、まだ十分とはいえぬまでも、かなり深くなります。
当社は大分市に本社を置く住宅基礎工事の専門業者で、主要取引先は5社。ゼネコンやハウスビルダーの下請けとして、年間50〜100棟規模の住宅基礎工事を請け負っています。工期短縮が常態化しており、当社では段取り力・工程調整力・柔軟な職人手配力を強みに対応しています。現場監督は他業者の遅れにも即応し、工程遅延を防いでいます。元請けからは「少々高くても、工程を守れる業者に頼みたい」と評価されています。
こういった実情を重ねて伝えていくことで、生成AIは次第にあなたの会社ならではの強みや顧客の本音に即した分析をしてくれるようになります。
競合分析ではAIが本領を発揮する
競合他社のウェブサイトURLを指定し、「この会社の強みや狙っている顧客層を教えて」と頼めば、生成AIはネット上の情報をもとに分析をしてくれます。
ただし、ここでも重要なのは「自社が狙うべき相手」とのズレに気づくことです。AIが分析した競合の強みは、あなたが狙いたいニッチな顧客層を念頭に置いたとき、本当に脅威になるものなのか。これは現場の感覚がなければ判断できません。
3C分析から導く“自社だけの価値”
3C分析の目的の重要なひとつに、顧客が求め(Customer)、他社が提供できず(Competitor)、自社が提供できる(Company)価値――すなわちバリュープロポジションを明らかにすることがあります(下図参照)。
中小企業こそ、この視点が重要です。なぜなら、大手と同じ土俵で「誰でも知っている世の中に広く存在するニーズ」に応えても、価格や総合力で勝てる見込みは薄いからです。
自社にしか見えていない顧客の困りごとを言語化し、それに対応できる手段を明確に示す。このプロセスを通じて、生成AIは非常に役に立ちます。
たとえば「当社の顧客は工期遅延のリスクを何よりも嫌う」「工程調整力と即応力が重視されている」という現場の一次情報を与えると、AIはそれを前提に、競合にない強みや差別化の観点を示してくれます。
このようにして、「選ばれる理由」を言語化し、磨き、そして現場に戻すことが、生成AIの正しい使い方のひとつです。
中小企業の現実と“問い”の視点
中小零細企業にとって「お客様を増やす」とは、大量集客ではありません。実際には、あと2〜3社の安定発注先ができれば十分な場合がほとんどです。飲食業なら、常連客が10人増えるだけで経営は大きく改善します。
にもかかわらず、多くの事業者が「誰でも知っている一般ニーズ」に合わせようとし、結果として価格競争に巻き込まれます。これでは総合力のある大手には勝てません。
本当に狙うべきは、“自社にしか見えていないニッチな困りごと”を抱える少数のお客様です。
だからこそ、現場で拾った一次情報をもとに、生成AIに「うちのお客様はこういうことで困っている」と伝え、さらに深掘りする“問い”を立てることが重要なのです。
営業とは「宿題をもらって帰ること」
私は、営業とは「注文を取ること」ではなく、「宿題をもらって帰ること」だと考えています。
つまり、お客様と話して「何に悩んでいるのか」「本当はどうなりたいのか」を聞き取る。これを持ち帰って、生成AIに投げかける。「このような背景を持つお客様に、どんな提案が響くか?」「当社のこのサービスは、どんな言葉で伝えると良いか?」そうした問いに、生成AIはしっかり応えてくれます。
行動しない限り、生成AIは何も変えてくれない
SNSなどで「生成AIのすごいプロンプト集」が出回っていますが、あれはあくまで出発点にすぎません。
現場での行動、お客様の反応、試行錯誤の蓄積があって初めて、「生成AIに何を聞けばいいか」が見えてきます。
つまり、生成AIの切れ味を決めるのは、AIの性能ではなく、あなた自身の観察眼・行動・実践の質なのです。
生成AIは「あなたの鏡」
生成AIの出してくる答えに「おっ」と思えるか、「なんだこれ」と感じるか――その差は、あなたの問いの質にあります。
問いの質は、現場を観察し、行動し、お客様の本音に迫ってきた人にしか持てません。だからこそ、生成AIは「あなたの鏡」なのです。
そして、自社にしか見えていないニーズに気づいたとき、生成AIはあなたにとって最強の“相棒”になります。
大切なのは、「何を言わせるか」ではなく、「何を見て、何を問いかけるか」でしょう。