「一流と二流の差はたったヒット5本だった」――“微差”を“大差”に変える社長の経営習慣

今月から、第二週は「社長の“経営習慣”と実践知見」をテーマに

今月から、第二週は「社長の“経営習慣”と実践知見」をテーマにお届けしてまいります。
これまで第二週は経営事項審査(経審)をテーマにしてきましたが、それよりももっと本質的で、より実務に根ざした学びを共有したいと考えたからです。
中小建設業の経営は、言ってしまえば「毎日の積み重ね」です。特別なことより、普段の行動が未来をつくる――その確信をもとに、経営習慣と実践知見について毎月お伝えします。


一流と二流は、「わずか5本の差」から始まった

移動中にFMラジオを流していたら、野村克也氏の昔のインタビュー音声が紹介されていました。

「打率3割なら一流、2割5分なら二流。ヒットたった5本の違いで、人は一流にも二流にもなるんです。それだけの違いで二流呼ばわりされてはたまらないと思った。」

若き日の野村氏は、テスト生あがりの二軍暮らしでした。プロの世界にいるのに、「二流扱い」される自分。その原因が、わずか5本のヒットの差だと気づいたとき、「この5本、どうにかして増やせないか?」と考えたそうです。

そして彼は、アメリカの伝説的バッター、テッド・ウィリアムスの打撃論を読み込みました。本がボロボロになるまで、何度も何度も。

ここに、ひとつのヒントがあります。

「本気の人は、“微差”を“気づき”に変え、やがて“大差”へと転換していく」


“気づき”を生むのは、問い続ける姿勢だけ

野村氏はその後、南海ホークスの中軸打者として活躍しましたが、大スランプに見舞われました。打てない、打てない、打てない…。

しかし彼は、再びあのテッド・ウィリアムスの本を手に取りました。そして、ある一文に目が留まります。

「ピッチャーは投球モーションに入るとき、すでに投げる球種を決めている。それを見て私は彼の投げる球がわかる。」

いまや中軸打者に成長した彼は、二軍時代には気づかなかったことに気がつきました。

「これは…投球モーションに“クセ”があるってことじゃないか?」

この“ひらめき”が功を奏し、野村氏はスランプを脱し、後に三冠王にまで上り詰めます。

ここでもうひとつ、大切なことが見えてきます。

「気づきとは、情報ではなく、“問題意識”と“実践の継続”からしか生まれない」


経営にも同じことが言えます

この野村氏のエピソードは、建設業の経営者の方々にも当てはまる話だと私は感じます。

売上が伸び悩む、利益が出ない、社員が動かない…。こうした課題の多くは、外部環境のせいばかりではありません。

「過去の自分ならどうやって乗り越えたか?」
「最近のうまくいった営業は、何が良かったのか?」
「相手の反応で、どんなヒントが得られたか?」

こうした問いを、繰り返し、繰り返し、自分に向ける習慣こそが、まさに“微差を大差に変える第一歩”なのです。


一流は、勝ちパターンを“再現”する

私がこれまで経営者の方々とご一緒する中で確信しているのは、「社長が、自分の“勝ちパターン”を言語化できるかどうか」が、会社の伸びしろを決めるということです。

営業がうまくいった時、現場が回った時、社員が動いた時――
そこには、必ず“うまくいった理由”があります。

しかし、それを言語化せず、偶然のままにしておくと、再現できません。

一流の社長は、うまくいった行動にラベルをつけ、自分の中に「勝ちパターンの引き出し」を持っています。
だから、調子が悪いときにも、その引き出しから“当たりの行動”を引っ張り出せるのです。


私自身の勝ちパターンは「面談営業」です

私のコンサルティング経験の中で断言できることがあります。

それは、「最も微差を大差にする行動」は、お客様との面談営業だということです。

訪問の前に、どんな話をしようか意図を持って準備する。
面談の場では、相手の表情や言葉から反応を読み取る。
終わった後には、自分の行動を振り返り、言語化して次に活かす。

この三つの習慣をまわすだけで、驚くほど営業の質が上がります。

お客様が教えてくれるのは「どうすれば契約がとれるのか」だけではありません。自分の仕事の価値の本質に関わるような、もっと本質的なことに気付かせてくれます。自ら営業に出向かない経営者は、お客様が増やす機会ばかりでなく、もっと大切なことを学ぶ機会を逸しているのかもしれません。


最後に――「才能」より「習慣」が未来を変える

一流と二流の差は、思っている以上に小さなものです。

野村克也氏が「たった5本のヒットで人生が変わる」と言ったように、
あなたの会社も、たった一つの「行動習慣」が未来を変える可能性を秘めています。

そしてその鍵は、「問題意識を持ち続け、気づきに変えること」
それを日常の面談、営業、社員との会話の中で繰り返していくことです。


中小建設業の未来は「微差に気づく社長」が拓く

どうか、あなたご自身の“勝ちパターン”を思い出してみてください。

・うまくいった現場の共通点は?
・契約が取れた営業で、あなたは何をしていた?
・信頼を得た社員との会話は、どんなスタイルだった?

この振り返りが、“微差”を“確信”に変え、未来の成果へとつながっていきます。

一流と二流の違いは、才能や資金力ではありません。
それは「わずか5本のヒットをあきらめない姿勢」であり、「当たり前の行動を、問い続ける習慣」なのです。