中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。今回は、「なぜ経費削減中心の経営計画ばかりが目立つのか」という疑問を出発点に、“行動に希望を宿す”ための支援のあり方について綴りました。
― 「数字だけの改善」では、会社はよくならない
最近、経営改善計画の策定支援に関わっていると、「経費削減」を最優先に掲げた計画書をよく目にします。
人件費の削減、広告宣伝費の見直し、業務委託費の縮小――。それらは確かに「数字を良くする」ためには即効性があります。
けれども、私はそうした計画支援はしていません。
経費を削るだけでは、会社の競争力は高まらない。むしろ、長い目で見れば、経営を弱らせてしまうことすらあるのです。
なぜ経費削減中心の計画が増えるのか?
このような経営計画が目立つ背景には、いくつかの事情があります。
第一に、数字としての効果がすぐ見えるという点。
人を減らせば人件費は下がり、広告を止めれば販促費が浮きます。営業利益やキャッシュフローが一時的に改善すれば、金融機関への説明材料にもなります。
第二に、支援者側も効果が“説明しやすい”という構造。
支出を削る提案は、「これだけやった」という行動の証明にしやすく、支援の成果として提示しやすいのです。
第三に、支援者側にとって積極戦略よりも“カタチにしやすい”という点。新商材・新サービス・新チャネル・新たな顧客を伴う積極戦略は、その内容がありきたりなものになりやすく、具体的なイメージに乏しいだけに成果も見えにくいので、漠然とした記述になりがちなきらいがあります。「一応、売上高アップの方策も入れましたよ」というニュアンスのものにとどまりやすいのです。
けれども、ここで見落とされているのが、経営者の“内面”への影響です。
経営計画を「自分ごと」として見られない理由
実は、多くの経営者が、経営改善計画の策定に熱心になれない理由がここにあります。
表面的には「忙しいから」「書類作成は苦手で」と言いますが、内心ではこう思っていることがあります。
「どうせまた“金融機関を納得させるための書類”だろう」
「御託はいいから早く済ませてくれ、判子は押すから」
こうして、経営計画の策定が「経営者自身が一歩踏み出す」機会ではなく、
「誰かにやらされる書類作成」にすり替わってしまっているのです。
行動が変わらなければ、未来は変わらない
私は、経営改善計画支援において、「数字」よりも先に「行動」もっといえば「結果につながる行動」が変わっているかを見ています。
なぜ売上が上がらないのか?
なぜ利益が残らないのか?
その答えは、資金繰り表や損益計算書ではなく、日々の現場の行動にこそあります。
たとえば、
見込み客への初回接触がいつ・誰によって行われているか
見積提出から受注までの歩留まりはどうなっているか
現場監督が、原価と利益の関係をどれだけ意識して動いているか
これらの「行動」を見える化し、意味づけし、継続できるように整えることが、私の支援スタイルです。
経営者の“やる気”は、希望が見えるときに生まれる
数字は結果にすぎません。
行動は、会社の未来をかたちづくる“原因”です。
「売上を2割増やせ」と言われれば萎縮する経営者も、
「来週から3件、Bランクの見込み客に電話してみましょう」と言われると、表情が変わります。
「それならできる」「やってみよう」と、自分の行動に希望を感じられるからです。
さらに言えば、未来の姿が見えると、人は考え始めます。
「だったら、こうしてみようか」「あの方法も使えるかもしれない」と、経営者の中に知恵がわいてくる。
そして、その未来に意味があると感じられたとき、意欲が自然に湧いてくるのです。
数字のプレッシャーではなく、未来の可能性が、行動を引き出す――これが本質的な経営改善だと、私は思います。
この「希望の実感」こそが、経営者の参加意欲を引き出します。結局のところ、切れ味のよい積極戦略のヒントは、こうした経営者の積極的な参加意欲から出てくるものなのです。削ることばかりに注目した計画からは、決して生まれません。
計画とは、未来への決意の言語化である
私は、経営改善計画とは単なる帳尻合わせの書類ではなく、「この会社は、こうやって未来を切り拓く」という意志の表明だと考えています。
数字だけ整えても、未来は動きません。
経営者とともに、行動を変える道筋を見出すこと。
そして、「これならできそうだ」と思える行動に落とし込むこと。
このプロセスを丁寧に設計するからこそ、経営計画は“自分ごと”になり、実行に結びついていくのです。
まとめ
経費削減中心の計画は、金融機関には説明しやすいが、経営者の心には響きにくい
経営計画が“自分ごと”に見えないのは、「未来をつくる行動」が描かれていないから
行動を変えることで、経営者の中に希望が芽生える
経営改善計画とは、「行動に移したい」と思える未来の言語化である
私はこれからも、「行動をともに変える支援」を貫いていきます。
数字ではなく、人の変化にこそ、会社を再生させる力があると信じているからです。