営業責任者の右腕になるということ ―「理想の顧客に選ばれる営業部門」づくりを支援するには―

中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。毎月第三週は、建設会社の営業をテーマに綴っていきます。

今回は、「営業責任者へのコンサルティングサポート」についてお話します。

毎日互いに顔をあわせている営業部隊といえども、一枚岩であることはむしろ稀です。プロ野球選手がチームメイトにも手の内を明かさないように、彼らも個人プレーヤーの意識が強く、慣れとプライドとが相まって「俺流」「私流」を崩さないところがあります。

営業責任者の立場にある方は、そのような中、経営者と現場の板挟みになりながらも、部門として「成果が出る営業のしかた」を確立したいと考えておられます。私はその実現を支える“社外の右腕”として、「助言というより伴走」の姿勢を意識しながら関わっています。


「理想の顧客に選ばれる理由」が言えますか?

支援の入り口でまず確認するのは、「理想の顧客は誰か?」という問いです。ここが曖昧なままでは、営業戦略もKPI設計もブレてしまいます。

ただし、これだけでは片輪走行です。
同時に問うべきは、「その理想の顧客に、なぜ選ばれるのか?」という問いです。

これは、商品やサービスの強みを聞いているのではありません。
「なぜ、この会社に頼みたいと思ったのか」――顧客の視点に立った“選ばれる理由”を明確にすることです。

飲食業界に「メニューがないレストランは流行らない」という言葉があります。
建設業も同じです。顧客のどんな課題に応えられる会社なのかを、具体的に言語化していないと、選ばれ続ける営業部門はつくれません。


苦手を補うより、得意を尖らせよう

営業支援の現場では、「この人は商談は得意だけど資料作成が苦手で…」という声をよく耳にします。でも、それでいいのです。不得意な部分を無理に埋めるよりも、得意なことを尖らせた方が、成果に直結します。

私はよく「小さなナンバーワンをつくりましょう」と提案しています。
ニッチ市場を狙い撃ちし、自社の強みとかけ算する。それが積極戦略の第一歩です。

たとえば、ある会社では、

  • 外構リフォームの相談に人一倍親身になれる営業マン

  • 現場の安全提案が自然と口に出る営業マン

こうした“得意”を営業責任者が見逃さず、社内で共有・活用していく仕組みをつくることで、組織全体の提案力が格段に高まりました。


ファクトから見えてくる強みの再現性

営業部門での成果には「なんとなくうまくいった」がつきものです。
ですが、それを属人的なもののまま放置していては、横展開も育成もできません。

ここで大事になるのが、「なぜうまくいったのか?」という問いです。

ただしこの「なぜ?」は慎重に使わなければなりません。
「なぜ失注したのか?」「なぜ数字が足りないのか?」といった聞き方は、言い訳や防御反応を引き出してしまいます。

重要なのは、ファクトに基づいた「なぜ」です。

「なぜこの案件は受注できたのか?」
「なぜこのお客様は初回面談から好反応だったのか?」

こうした“結果につながるプロセス”を深掘りすることで、強みの再現性が見えてきます。
そして、それを仕組みとして営業責任者が社内に共有していくことが、「属人営業」から「組織営業」への転換につながります。


「それによって何が得られますか?」の力

営業責任者の方から、「数字を上げたい」「チームのパフォーマンスを安定させたい」といった言葉を聞くことは少なくありません。

その時、私は「それによって何が得られますか?」という質問を静かに投げかけます。

この問いかけの目的は、コンサルタントである私が“見抜く”ことではなく、営業責任者自身が“気づく”ことです。
本当に欲しいもの、心から実現したい世界は何か――それに自ら気づくことで、行動に本当のエネルギーが宿ります。

実際のやりとりをご紹介します。

「数字を上げたい」
「それによって何が得られますか?」
「部門としての信頼が高まり、裁量が増えます」
「それによってどんないいことがありますか?」
「営業のやり方を、自分の責任で変えられるようになります」
「そうなると、どんなメリットが生まれますか?」
「自分が主導して、営業組織を変えていけるようになります」

この「変えていけるようになる」という言葉に、その方の本音がにじんでいました。

こうして本人が“自分のミッション”に気づいたとき、初めて「これは自分ごとだ」と感じられます。その状態で設計するKPIや行動は、格段に持続力と集中力が違ってきます。


行動KPIを“確率戦”に持ち込む

営業成果はコントロールできません。
しかし、行動はコントロールできます。そして一定の行動量を超えると、成果につながる“確率”が上がってきます。

それが、行動KPIの本質です。

  • 初回訪問後24時間以内に御礼メールを送る

  • 提案日程をその場で確定する

  • 見積提出前に「設計意図」を口頭で説明する場を設ける

こうした行動の積み重ねが、「ここまでやれば、〇〇%の確率で受注につながる」という営業パターンを形づくります。
再現性のある営業を構築するには、この“確率戦”の視点が欠かせません。


行動をルーチンに、ルーチンを“ちょっとした楽しみ”に変える

営業責任者が設計した行動KPIを現場で定着させるには、やらされ感をなくし、「気づけば続いていた」状態に持ち込む工夫が必要です。

ある会社では、営業会議の冒頭に「一言チャレンジ報告」の時間を設けました。
「今週、お客様に褒められたこと」「小さな工夫がうまくいったこと」など、営業担当者が各自30秒ずつ話すだけですが、会議の雰囲気が一変しました。

加えて、現場の楽しさを演出する“ゲーム化”の工夫も効果的です。

  • 行動KPIを達成するごとに「Bingo」が埋まり、月末に達成率を可視化

  • 営業プロセスを「すごろく」に見立て、今どこにいるかを共有

  • お客様の声を集めて“今月の神対応賞”を決定

これは単なる遊びではありません。行動に意味を持たせ、継続の動機づけにする工夫です。

今日の成功が明日の保証である。その積み重ねを365回やると1年になります。
だからこそ、行動を仕組みに乗せて習慣化し、それを「ちょっと楽しく」続ける工夫が現場には必要なのです。


現在位置を把握する営業組織へ

営業のプロセスにはフェーズがあります。
だからこそ、「自分は今どこにいるのか」を営業担当者自身が把握できるようにすることも、営業責任者の大事な役割です。

  • 初回接触なのか

  • 提案準備中なのか

  • どのレベルのテストクロージング直前なのか

現在位置がわかれば、適切なアドバイスも可能になります(ある工務店では、現在位置がわかるように営業日報を書くように指導したことで、社長が「じつに助言がしやすくなった」と喜ばれました)。

そのためには、自分の営業パターンを図解したり、ベテラン社員に見てもらったりする“自己認識の仕掛け”も効果的です。


まとめ:「支援」ではなく「伴走」という姿勢で

営業責任者は、意外と孤独です。経営と現場の間で、チームを率いながら、成果も問われます。だからこそ私は、「教える」でも「助ける」でもなく、「一緒に考え、伴走する」存在でありたいと考えています。

  • 相手の本当の関心事に寄り添い

  • 気づきを引き出し

  • 強みを仕組みに変え

  • 習慣化を楽しめるものにする

その積み重ねの先に、理想の営業部門が見えてきます。

来月もまた、建設会社の営業支援に役立つテーマでお届けします。どうぞお楽しみに。