決算操作で経審点数は上がるのか?──その前に考えてほしい大切なこと

中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。
毎月第二週は、経営事項審査(経審)関連テーマを綴っていきます。

今回は、「経審の点数を少しでも上げたい」という思いから、安易な“決算操作”に走ってしまうケースについて取り上げます。

経審におけるY点(経営状況分析)やZ点(総合評点)を上げるために、数字を整えたくなる気持ちはよくわかります。ですが、その“整える”という行為が、いつの間にか“ごまかす”に変わってしまうことがあるのです。

そしてその先にあるのは、経営判断を誤るという、数字以上に深刻な事態です。


よくある決算操作と、そこに潜む“見えない落とし穴”

1. 未成工事支出金の“かさ上げ”

最もよく見られるのが、未成工事支出金の操作です。
本来、期末時点で未完成の工事にかかった費用を計上するものですが、実際にはほとんど完成している現場まで未成扱いとし、コストを資産として処理することで当期の費用を減らし、利益をかさ上げするという手口です。

利益が増えれば自己資本比率も向上し、経審のY点(財務分析点)も改善します。税務上も、利益のブレを調整しやすいということで、悪気なくやってしまう方もいます。

しかし、この操作は翌期にその分の売上が上がることを前提としています。期末の未成工事支出金が膨らんでいるのに、翌期上半期の売上高が低迷している――そんな決算を私は何度も目にしてきました。要するに、バレバレなのです。

さらに問題なのは、こうした操作を繰り返すことで、「決算数値をもとにした財務分析」が本来の意味をなさなくなってしまうことです。自己資本比率、利益率、運転資金回転率…。どれも“実態”を正しく映すはずの数字が、いつしか“演出”されたものに変わり、分析が機能しなくなるのです。


2. 完成工事高の“前倒し”や“繰延べ”

完成工事高を意図的に前倒し、あるいは翌期に繰り延べることで、売上や利益を調整するケースもあります。赤字を避けるため、工事が完了していないのに売上を計上してしまったり、逆に利益が出すぎたときに、完成済みの工事を翌期にずらすという形です。

短期的には税負担の軽減や、経審点数の調整に役立つように思えます。
しかし、売上と原価、工期、キャッシュフローの整合性が崩れれば、現場ごとの粗利が把握できず、「本当にどの現場が儲かったのか」が見えなくなってしまいます。

このズレが続けば、現場ごとの収支管理は形骸化し、「感覚」に頼った経営判断が繰り返されるようになります。それがいずれ、大きな意思決定ミスにつながっていくのです。


3. 架空資産や使われない資産の温存

機械や資材など、実態としては使われていないものを“資産”として残し、総資産を膨らませることで自己資本比率を良く見せる――これも決算操作の一つです。

帳簿上のバランスシートは立派になりますが、実際にはそれらの資産には換金性がなく、むしろ管理コストや処分費用がかかるケースすらあります。

経営者は「うちは資産があるから大丈夫だ」と誤認しがちですが、それは数字の中にしか存在しない安心感です。こうした“幻の資産”をもとに投資判断を下せば、その影響は想像以上に大きくなります。


最も深刻な問題:経営者が“本当の実情”を見失う

決算操作の最大のリスクは、経営者自身が、自社の本当の実情をつかめなくなることにあります。

本当はどれくらい収支にズレがあるのか。
どの現場が儲かり、どの現場が足を引っ張っているのか。
いくら手元に残っていて、どのタイミングで資金が尽きるのか。

こうした“経営者として知っておくべきリアル”が、数字の操作によって曇らされていきます。
これは、「数字の粉飾ではなく、感覚の麻痺」といえます。

数字が正しくなければ、財務分析も、資金繰り管理も、戦略立案も、すべてが土台から崩れてしまいます。経審の点数が上がっても、会社の土台が弱っているなら、それは見かけ倒しです。


点数を上げるのではなく、“中身”を良くする

経審の点数は、“行動の結果”にすぎません。
赤字現場をなくす努力、有資格者の育成、資金繰りの改善、安全・品質管理の徹底――そうした積み重ねが会社の体力を高め、結果としてY点やZ点に反映されるのです。

数字を変えたいなら、経営を変えるしかありません。
決算書は、取り繕うものではなく、自社の鏡であるべきです。


まとめ:信頼される会社に、粉飾はいらない

経審の点数は、公共工事の世界で信頼を得るための“通行証”のようなものです。
でも、粉飾で手に入れた通行証は、いずれ信用を失うことになります。

何よりも大切なのは、経営者自身が、自社の実態を正しくつかんでいること。
数字の裏付けがあるからこそ、現場にも金融機関にも、堂々と語れるのです。

見かけを整えるより、中身を良くすることに全力を注ぐ。
それが、経審の点数を“本当に意味あるもの”に変える道です。