【はじめに】「それでも、現実には意味がある」
中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。
ある中小建設会社の社長から、こんな話を聞きました。よくある悩みです。
「月次試算表が出てくるのに、うちは3ヶ月近くかかるんです。金融機関からも、何とかしてほしい、と言われててね。これじゃ業績管理の役に立ちませんよ、と。」
おっしゃるとおり。これでは、業績の良し悪しをリアルタイムで把握することも、先手を打った手を講じることもできません。月次試算表が1ヶ月以内に出てくる会社と比べれば、まるでライトのない車で夜道を走っているようなものです。
けれど、私はこうも思うのです。
「そうなったのは、そうなったからだ」と。
試算表が遅れるのには、それなりの理由がある
社内の記帳が遅い、業者請求書の提出が遅い、会計事務所が混んでいる、専任の経理担当がいない…
そうした一つひとつの事情は、経営者の努力不足ではなく、「そうせざるを得なかった過去の選択や優先順位」の積み重ねの結果です。
つまり、「なぜそうなっているのか」を軽んじてはいけない。
その会社にとっては、それが“最適化された現実”だったかもしれないからです。
理想を掲げるだけでは、現実は変わらない
たとえば、経営計画のアクションプランに「月次試算表の1ヶ月以内提出を実現する」と掲げたとしても、 現場の現実にフィットしていなければ、絵に描いた餅になります。
実際、そんな目標を立てた会社ほど、現場の業務フローが変わらず、 半年後には「やっぱりできませんでした」となることが少なくありません。
私は、こういう時こそ「対策の前に、観察が必要」と考えます。
“早く”より、“見える”が先
経営にとって本当に必要なのは、「数字の速さ」より「経営の感覚」です。
・今月、現場が何件動いているか
・見積の提出件数や失注件数の増減はどうか
・主要顧客の発注ペースに変化はないか
・原価のズレが大きい現場はどこか
これらは、試算表を待たずとも察知できるシグナルです。
つまり、試算表が遅れるという「現実」を前提に、それでも見えるようにする「簡易モニタリング」の設計が、先にあるべきです。
現場から拾う“感じる業績”という視点
私が経営支援でよく使うのが、「感じる業績管理」という発想です。
たとえば──
・営業案件のリストを週次で塗り替える
・現場ごとの粗利予測を、部門長が手書きで集計する
・見積件数と受注件数の差を、営業担当がホワイトボードで可視化する
どれも手軽ですが、効果は絶大です。
数字の“後追い”ではなく、日々の動きから「先に兆しを感じ取る」視点が会社に生まれます。
【まとめ】「できない」には理由があるが、やれることはある。
月次試算表が遅れている会社に、いきなり「早く出せ」と言っても、現場が疲弊するだけです。
それよりも、「いまの姿にも意味がある」と認めたうえで、現場に合った“見える化”を一緒に作っていくことが、持続可能な改善につながります。
だから私は言いたいのです。
「そうなったのは、そうなったからだ。」
そして、「それでも、やれることはある。」
現実に敬意を払い、そこから動き出す。それが私の経営支援の出発点です。