戦国武将に学ぶ 人が辞める・育たない悩みへの向き合い方

中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。今回は、人材の採用育成について綴ります

はじめに:今の時代の悩みを、昔の知恵で読み解く

中小建設業の経営者の方とお話をしていると、「良い人材が採れない」「育ててもすぐ辞めてしまう」「信頼できる人が少ない」「幹部が育たない」といった悩みをよく耳にします。人材の悩みは、今に始まったことではありません。実は戦国時代の武将たちも、同じように人材に頭を悩ませていたのです。

私たちが抱える経営課題に、彼らがどう向き合ったのかを知ることで、今の悩みを少し違った視点から考えるヒントが得られるかもしれません。本稿では、羽柴秀吉、大友宗麟、島津義弘、竹中半兵衛らのエピソードをもとに、現代の中小企業経営に活かせる「人材との向き合い方」をご紹介します。

ケース1:羽柴秀吉――「人材不足を自覚したから、育てた」

信長の天下統一を支え、やがて自らも天下人となった秀吉ですが、出発点は農民の子。人脈も地位も何もありませんでした。唯一の腹心と言える存在は弟の秀長だけだったと言われています。だからこそ、彼は「人が足りない」という現実を痛感していたのです。

秀吉は、親類の子供を引き取り、寝食をともにしながら育てあげていきました。いわゆる「子飼い(こがい)」の武将たちです。加藤清正や福島正則といった武将たちは、幼少の頃から秀吉のそばにいて、彼のやり方を肌で学び、のちに重要な戦力となりました。

ここから私たちが学べるのは、「人材がいない」と嘆くだけでなく、「だからこそ育てる」という発想に切り替える重要性です。小さな建設会社にとって、即戦力がなかなか採れないのは当たり前。であれば、自社に合った人を一から育てていく覚悟と仕組みこそが、長期的には最大の資産になります。

ケース2:大友宗麟の重臣・戸次鑑連――「欠点ではなく、強みを語る」

大友宗麟の家臣で、九州随一の猛将と称された戸次鑑連(べっきあきつら)。あるとき、部下が酒席で粗相をしてしまいました。本来なら主人である鑑連が恥をかかされた場面ですが、鑑連はこう言いました。

「この者は、酒席の作法には疎くても、戦場では誰にも引けを取らない働きをする頼もしい男です」

この一言で、その部下は面目を保つことができました。戸次勢は精強で知られ、鑑連が戦場で「死ねや死ねや」と鼓舞すると、部下たちは命を懸けて戦ったといいます。

職場では、「あいつは気が利かん」「コミュニケーションがとれん奴だ」など、短所ばかりに目が向いてしまうことがあります。しかし、短所の裏には必ず長所があります。その人が一番力を発揮できる場面を見極めて、そこで評価する。その積み重ねが、「この人のためなら頑張れる」という関係性を生み出すのでしょう。

ケース3:島津義弘――「不運な部下にも、可能性を語る」

関ヶ原の合戦における敵中突破で知られる島津家の名将・義弘は、戦功のなかった部下に対しても、こう語ったといいます。

「お前は不運にして手柄がないが、きっと父に勝る働きをするに違いない」

「まだ結果を出していない人」にも、前向きな言葉をかけることで、相手の自己評価が変わります。「自分は認められている」という感覚は、モチベーションの源です。

経営者が何気なくかけた一言が、部下の運命を変えることもあります。特に経験の浅い若者や、途中から業界に入った未経験者に対しては、「今の結果」ではなく「未来の可能性」に期待をかけてあげることが、育成の第一歩になるのです。

ケース4:秀吉が三成を見出したように、人との出会いが人生を変える

羽柴秀吉は、長浜(いまの滋賀県)に領地を得たことをきっかけに、石田三成という若者と出会います。加藤清正にしても、秀吉と親戚筋だった縁が人生を変えました。

私たちの人生もまた、「誰と出会うか」で大きく変わることがあります。採用にしても、たった一人の採用が会社の未来を変えることがあるのです。

だからこそ、出会いの質を上げる努力が大切です。「誰かいい人が来ないかな」と待つのではなく、社長自身が人と出会う場を増やす、話をする、相手に関心を持つ。出会いを運に任せず、戦略的に仕掛けることが、結果として「縁」に繋がります。

ケース5:竹中半兵衛――「士は己を知る者の為に死す」

信長に命じられて秀吉がスカウトに行った天才軍略家・竹中半兵衛は、こう言ったと伝えられています。

「信長様の家来にはなりませんが、あなたの家来になります」

人は、立場や給料ではなく、「自分を理解してくれる人」「自分の強みを引き出してくれる人」のもとで働きたいものです。あなたは部下や応募者に対して、彼らの未来を語ってあげていますか?「君は今は未熟かもしれないが、きっとこうなる」と言ってあげる人は、少ないものです。

半兵衛があなたの軍師なら、こう助言するのではないでしょうか。

「殿、未来に行ってお考えなされませ」

この言葉は、ただの戦略的アドバイスではありません。現代の私たちにとっては、自分自身の思考を未来にジャンプさせるための、いわば問いかけです。

たとえば――あなたが3年後、今とは違うレベルで会社を経営しているとします。信頼できる右腕が育ち、社員が自発的に動くチームになっているとします。では、その状態を実現するには、今、何を始めておくべきでしょうか?

そんな「未来の自分」から逆算して、今を見つめ直す視点を持てば、目先の感情や利害ではなく、長期的な人材戦略の答えが見えてくるかもしれません。

もし、そうした視点を持つことに少しでも関心が湧いた方は、私のコンサルティングがお役に立てるかもしれません。未来の御社を一緒に描いてみませんか。