経営者の“懐刀”になる条件 ~信頼関係を築く、見えないスキル~

中小建設業専門の経営コンサルタント長野研一です。

今回は、『現場を動かす言葉の力――建設業の経営者が磨くべき「伝え方・気づき方・行動の導き方」』全4回の最終回です。

■「あの人には、つい本音を話してしまうんだよね」

経営支援をしていると、時折、こんな言葉を社長からいただきます。

「だれにも言わないつもりだったけど、あなただから話すよ」
「今日話して、ずっとモヤモヤしてたことの正体が今、ハッキリした」

私にとって、それはとても嬉しい言葉でした。
相談というより、独り言のようにこぼれ出る本音。
その瞬間に立ち会えたとき、私は「懐刀」としての仕事ができたのではないかと思うのです。


■社長の孤独に寄り添える存在とは

中小企業の社長、とりわけ建設業の社長には、孤独がつきものです。
誰にも言えない資金繰りの悩み、
成長しない社員への苛立ち、
世代交代や将来への不安。

そういった思いを、人前で口にすることは少ないでしょう。
けれど、どこかで「誰かにわかってほしい」と思っている。
その“誰か”になれるかどうか。
それが、経営支援においてはとても重要だと感じています。


■「正しいこと」より「つながること」

経営支援者の仕事は、「正解を教えること」ではないと私は思っています。
大事なのは、相手の地図を一緒に見て、同じ地点に立って、
その人の視点から物事を見ること。

人はそれぞれ違う価値観や経験を持っています。
見えているものも違えば、感じていることも違う。
だから、すぐにジャッジせずに、判断を保留する。

「そういう見え方もあるかもしれない」
「もしかしたら、自分にはまだ見えていない何かがあるかもしれない」

そう思える姿勢を持つことが、支援者としての土台だと思っています。


■言葉にできた瞬間、行動が変わる

私は、社長と面談していてよく思うのです。

「この人は、すでに答えを持っているな」と。

けれど、それがまだ“言葉になっていない”。
もしくは、“自分の言葉で語れていない”。

そんなとき、私はそっと問いを立てます。
「それは、いつから気になっていたんですか?」
「本当は、どうしたいと思っているんですか?」

その問いに、少し間を置いて、社長が言葉を探すように話し出す。
そうして紡がれた言葉には、その人自身の納得と実感が宿っています。

そして不思議なことに、言葉になった瞬間から、行動は変わり始めるのです。


■支援の本質は、目に見えない“関係性の質”

コンサルタントというと、「分析」「提案」「計画づくり」というイメージを持たれがちです。
もちろん、そうした要素も大事です。

でも、私が大切にしているのは、もっと“人間くさい部分”です。
たとえば、

  • 話すスピードやトーンを自然に合わせること

  • 相手が使った言葉を、そのまま返してみること

  • 少し言い淀んだ沈黙に、焦らず寄り添うこと

こうした関わりが、相手との関係性に深みを与え、
「この人になら話してもいい」と思ってもらえるきっかけになるのです。


■【あとがき】――私は“学んだ”というより、“体感してきた”だけ

私は、NLPという実践心理学を「テクニック」とは捉えていません。
実はそれよりも、自分自身が救われた体験の積み重ねとして、自然と身についたものだと思っています。

だから、特別なことをしているつもりはありません。
ただ、相手の言葉の奥にある気持ちに耳を傾け、
自分の感覚を信じながら対話しているだけです。

言葉がほぐれると、気持ちが動く。
気持ちが動くと、行動が変わる。
その瞬間に立ち会えるのが、私の何よりの喜びです。


この4回のシリーズを通じて、
「社長の言葉が変わると、現場が動き出す」ということを、さまざまな角度から綴ってきました。

もし心に残るフレーズがひとつでもあったなら、
それは、すでにあなたの中にある“答え”と響き合った証拠かもしれません。

引き続き、そんな言葉を届けていけたらと思っています。