知識やノウハウよりも大切なこと。コンサルタントとしての「在り方」を問う

コンサルタントとして、あるいは経営者として、人に対峙したときに醸し出される「空気感」というものがあります。

先日、ある気鋭の若手経営者の方と対話をする機会がありました。

彼は現在、建設業を主軸とされていますが、その知見を活かし、今後はコンサルティング業へと付加価値の領域を広げていこうと画策されています。非常に熱心で、また聡明な方です。

そんな彼から、ふと核心を突くような問いを投げかけられました。

「経営コンサルタントの方にお会いすると、独特の落ち着きというか、余裕というか、相手を丸ごと受容するような『懐の深さ』を感じることがあります。あれは一体、どこから来るものなのでしょうか? どうすれば、あの空気感を身につけられるのでしょうか?」

非常に鋭く、また本質的な質問です。 私は少し考え、「あくまで私の理解と実践の範囲でですが」と前置きをした上で、いくつかのお話をさせていただきました。

今回は、その際にお伝えした内容を整理し、「コンサルタントとして、そして人を導くリーダーとして大切なこと」というテーマで、少し深掘りして書いてみたいと思います。


 

1. 「自分」にフォーカスするということ

 

まず、その「落ち着き」や「余裕」の正体についてです。 結論から申し上げますと、それは「自分自身をどれだけ客観視できているか」という点に尽きると私は考えています。

コンサルタントというと、どうしても「相手(クライアント)の課題」や「市場の動向」といった、外側の世界にばかり目を向けがちです。もちろんそれも重要ですが、真の余裕は、実は「自分自身の内側」に目を向けることから生まれます。

私たちの心の中には、成長を阻害しようとする「もう一人の自分」がいます。 新しい挑戦をしようとすると「失敗したらどうするんだ」と囁く自分。相手に良く見られたいと願うあまり、知ったかぶりをさせようとする自分。批判されることを過剰に恐れる自分。

こうした「自分の中の何者か」に気づくことが、最初のステップです。

焦りや不安、あるいは相手に対する威圧的な態度は、多くの場合、自分自身の弱さや自信のなさを隠そうとする防衛本能から来ています。「自分は今、自信がないのだな」「少し虚勢を張ろうとしているな」と、自分の状態を冷静にモニターできるようになった時、初めて人は不自然な力みから解放されます。

その時に醸し出される「自然体」こそが、相手には「落ち着き」や「余裕」として映るのです。

 

2. 弱みは強みにはならないが、武器にはなる

 

自分の内面を見つめると、どうしても「弱み」や「欠点」が目につきます。 よく「弱みを克服して強みに変えよう」という自己啓発的な言葉を耳にしますが、私はこれには少し懐疑的です。

弱みは、基本的には強みにはなり得ません。 苦手なことを人並みにできたとしても、それは「マイナスがゼロになった」だけであり、卓越した強みとして機能することは稀だからです。

しかし、「自分の弱点を客観視できている状態」は、強力な武器になります。

例えば、自分が「細かい事務作業が苦手で、大雑把になりがちだ」という弱点を自覚しているとします。それを隠して完璧なフリをするコンサルタントは、いつか必ずボロを出して信頼を失います。 一方で、それを客観視できているコンサルタントは、「私は緻密な作業が苦手なので、そこはこのツールで補完します」あるいは「そこは得意なスタッフと組みます」と、対策を立てることができます。

「自分は完璧ではない」と認め、その上でどう振る舞うかを設計できている人。 その潔さと、弱点さえもコントロール下に置いている姿勢が、相手に安心感を与えるのです。「この人は嘘をつかない」「自分の限界を知っている」という信頼こそが、プロフェッショナルとしての「懐の深さ」に繋がります。

 

3. 知識で押し切るな、相手を「リスペクト」せよ

 

若手のコンサルタントや、新任のリーダーが陥りがちな罠があります。 それは、「自分の知識やノウハウで相手をねじ伏せようとしてしまう」ことです。

相手が反論できないようなロジックを組み立てたり、専門用語を多用してマウントを取ったりしてしまう。しかし、これは逆説的ですが、「本当はお客様を導く自信がない」ことの裏返しでもあります。

相手に気づきを与え、行動変容へ導く自信がないからこそ、手っ取り早く「知識という武器」で優位に立とうとしてしまうのです。

コンサルティングの基本は、相手への絶対的なリスペクトです。 目の前の経営者や担当者は、その業界で、その会社で、泥臭い現実と戦ってきたプロフェッショナルです。その敬意なしに、表面的な知識だけでサポートなどできるはずがありません。

真のコンサルタントは、知識をひけらかすのではなく、知識を「問い」に変換して提供します。 「私の知識ではこうですが、御社の現場ではどう感じますか?」 そうやって相手の中に眠っている答えを引き出し、気づかせ、自ら行動するように導く。それができるのは、相手のポテンシャルを信じているからです。

知識で武装しているうちは、余裕など生まれません。鎧を脱ぎ、「あなたを尊敬しています」というスタンスで向き合えた時、初めて対等な対話が生まれ、そこに深い信頼関係が築かれます。

 

4. 実践者の言葉だけが持つ「重み」

 

今回ご質問をくださった彼は、建設業という「実業」を持っておられます。 私は彼に伝えました。「それは、これからのコンサルティングにおいて最強の武器になりますよ」と。

なぜなら、「自分で実践している人間」の言葉は、説得力がまるで違うからです。

本で読んだだけの空理空論を並べるコンサルタントと、泥にまみれて実践してきた経営者。どちらの言葉が相手の心に響くかは明白です。

ここで重要なのは、「失敗談」の価値です。 多くの人は「成功事例」ばかりを語りたがります。もちろん、成功談は「こうすればうまくいく」という手本になります。しかし、それだけでは相手は動き出せないことがあります。「それはあなただからできたんでしょう?」と思われてしまうからです。

一方で、「失敗談」は相手に「勇気」を与えます。 「実は私も、こんな失敗をして、あんな痛い目にあいました。でも、こうやって乗り越えました」 その話は、相手に「自分も失敗するかもしれないが、それでも大丈夫なんだ」「この人も同じ人間なんだ」という共感と安心感を与えます。

コンサルタントが自らの実践(特に失敗)をさらけ出すとき、それは単なる情報提供を超えて、相手の背中を押す「魂のメッセージ」になります。 建設業で培った現場感覚、人の動かし方、そして数々の失敗と成功。それらすべてが、彼自身の言葉に「重み」と「体温」を宿らせるはずです。

 

5. 行動は、行動によってしか磨かれない

 

どれだけ本を読み、セミナーに参加し、こうしたブログを読んだとしても、それだけで「余裕」が身につくわけではありません。

行動は、行動によってしか磨かれません。 そしてその事実は、皮肉なことに、行動してみないと実感できないのです。

コンサルティングの現場は、生き物です。 予期せぬ質問が飛んでくることもあれば、感情的な対立が起こることもあります。その一つひとつに直面し、冷や汗をかき、後悔し、次はどうすればよかったかを考え抜く。その繰り返しの先にしか、本物の「落ち着き」は待っていません。

泳ぎ方を畳の上でいくら学んでも泳げるようにはならないのと同じです。 まずは水に飛び込むこと。 「余裕がない自分」に気づき、それでも相手に向き合い続けること。 そのプロセスそのものが、コンサルタントとしての器を広げていきます。

 

6. すべての人の役には立てない、という「割り切り」

 

最後に、とても大切なことをお伝えしました。 それは、「すべての人の役には立てないし、立てなくてもいい」と割り切ることです。

「顧客満足」という言葉に縛られすぎると、私たちはつい「誰にでもいい顔」をしたくなります。無理な要望を聞き入れ、理不尽な扱いにも耐え、自分のスタンスを曲げてまで相手に合わせようとしてしまう。

しかし、それではプロフェッショナルとしての軸がぶれてしまいます。軸がぶれている人間に、安心感や余裕を感じる人はいません。

「こちらのスタンスがぶれない」関係性を築ける顧客に集中する。 これは決して傲慢なことではありません。お互いにとって不幸なマッチングを避けるための、誠実な選択です。

彼もまた、実体験としてこう語ってくれました。 「確かに、何でも言うことを聞く『下請け』のような意識でいた時はうまくいきませんでした。でも、プロとして対等な立場で意見を言い、『お客様に舐められなくなってから』の方が、むしろ良い関係性が築けるようになりました」

まさにその通りです。 コンサルタントは、王様(顧客)の家来ではありません。共に山を登るパートナーであり、時には耳の痛いことも言うガイド役です。

「私には私の流儀があり、それで貢献できる相手にとことん尽くす」 そう腹を括ることで、過度な迎合がなくなり、結果として、相手を包み込むような堂々とした「余裕」が生まれてくるのです。

 

おわりに

 

コンサルタントに求められる「余裕」や「懐の深さ」。 それは、持って生まれた才能や性格によるものではありません。

  • 自分の弱さと向き合い、受け入れること。

  • 知識ではなく、リスペクトを持って相手に接すること。

  • 自ら実践し、泥臭い経験を言葉に乗せること。

  • そして、「自分ができること・すべきこと」の軸をブラさないこと。

こうした日々の内省と実践の積み重ねが、やがてその人の「空気感」となって表れます。

今回ご質問をくださった若き経営者は、すでにこのことに気づき始めています。現業での強みを活かし、彼ならではの「説得力あるコンサルタント」になられる未来が、私にははっきりと見えました。

これからコンサルタントを目指す方、あるいは部下を持つリーダーの皆様にとって、この「在り方(Being)」の視点が、何かのヒントになれば幸いです。


【ぜひ、あなたの「行動」を聞かせてください】

もし、あなたが今「自分の弱み」や「自信のなさ」を感じているとしたら、それは成長のチャンスです。まずは、その不安を感じている自分自身を「そうか、今は不安なんだな」と認めてあげることから始めてみませんか?

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